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茶道をはじめたきっかけ・中編

続きです。

空港で荷物が届かない、レンタカーがハイウェイで事故る、ディズニーワールドのフリーパスを速攻で無くす等々のトラブルがあったフロリダだが、極めつけは最終日。
ボストンへ向かう空港でのことだ。
友人とオーランド国際空港へ到着し、搭乗手続きを友人に任せていると(僕は不慣れな上に英語できないので)何やら職員ともめだした。


どうも、天候不良でフライトがキャンセルになったらしい。

しかも、僕の搭乗する便はキャンセルされるが友人の便は予定通り飛ぶとのことだ。
なぜ2人が別々の便かというと、チケットの手配はすべて友人に任せていて、成田からアメリカ、アメリカ国内、アメリカから成田までのトータルで少しでも安くなるように手配してくれていたためフロリダ〜ボストンは2人別々の便だったのだ。

本日分はキャンセルになった。
しからば、次の搭乗予約、またそれまで僕がどう過ごすか、いやいや、それより先に今日泊まる宿をどうするか?を考えなければならない。
友人曰く、フライトがキャンセルになったら航空会社がホテルを用意するんだが回線がパンクしていて手配ができないとのことだった。

何もかもが初めてのことすぎて呆気に取られている僕をよそに友人は粘り強く航空会社と掛け合ってくれたが、タイムアウト。
友人のフライト時間が来てしまった。
「悪い、どうしてもホテルが取れなかった。これ、明日のチケット。この時間に空港に来たらボストンまで乗れる。多分明日は大丈夫だ。なんとか生き延びてくれ、ボストンで待ってる!」
そう言って友人は搭乗ゲートへ走っていった。

フライトキャンセルで喧騒に包まれている中僕は、
「マジか。フロリダの空港でひとりぼっち。これからどーすんねん」
と思ったがひとまず落ち着こう!
コーヒーを飲んで、冷静になろう!
そう思い空港のスターバックスへ行き、「Hot tall coffee please」と唯一自信を持って話せる単語でコーヒーを頼み、ひと息ついた。

余談だが、僕は元々タリーズコーヒーでアルバイトしていた経験からスタバよりタリーズ派だったのだか、この時お世話になったのをきっかけにすっかりスタバのヘビーユーザーになった。現在は年間400杯ほどコーヒーを飲んでいるスタバのロイヤルカスタマーになったきっかけはこの時のフロリダである。

さて、コーヒーを飲んで一息ついて整理するととにかく明日の午後にまた空港に来ればボストンへ行ける。今日泊まる宿を見つければそれで解決だ!と考えタクシー乗り場へ向かった。


行き先は、今朝まで泊まっていたホテルだ。

幸い、旅程表にホテルの住所がメモしてあったためそれを運転手に見せ、「ここまで行ってくれ」と頼んだ。
空港から10数分で見慣れたホテルへ到着した。
なんてことはない、1人でタクシーに乗り、1人で「今日泊めてください」と頼むだけの簡単なこと。
ほんのささやかな冒険。
そう思いつつホテルのロビーへ行ったのだが、
「ごめんよ、生憎今日はもう予約でいっぱいなんだ」
朴訥そうな黒人のホテルマンは僕の拙いリスニング能力でも十分理解できる簡単な単語で宿泊を断られた。
粘ることもできただろうが、そこまでの英語力は僕にはない。
「thank you」
そう言ってホテルを後にした。

さて、予想外に宿泊が断られてしまったが僕はそんなに焦ってなかった。
なぜなら、ここは空港からもほど近いホテル街なため他にもたくさんホテルが立ち並んでいたためだ。
まぁ、次で泊まれるだろう。
そう思っていたのだが…
「今日は満室」
「今日は無理だ」
3、4軒当たってみたが悉く満室。
5軒目には既にホテルの入り口に
「sorry!today’s sold out!」
と手書きの張り紙。
マジか。
こんなことある?
あたりが暗くなってきて、さすがに焦る。

3月のフロリダは暖かい。
「なんなら、このまま野宿でもしちゃおうか。アメリカで野宿も良い思い出だな」
と呑気に考えたのも束の間。
ガタイのいい黒人のお兄ちゃんがジロジロこちらを見ながら、微妙な距離を保ちながら歩いている。ように、思える。
いつしかホテル街のはずれまで歩いていて、ここから先に行ってもホテルはない。僕はひとまず来た道を街灯の下を歩き引き返した。

戻ってきたのは1番初めに入ったホテル。
今朝まで宿泊していたホテルだ。
疲れていたので、入り口の前のベンチへどすっと腰掛けた。

自分の根が楽観主義なのか、甘えた考えが頭をよぎった。
あー、、このまま不安げな顔で1人ここに座っていたら誰か助けてくれるんじゃないだろうか。うん、こんなところで日本人の男の子が大荷物を抱えて1人しょんぼりしていたら「どうしたんだい?」って誰か声をかけてくれるに違いない。このままこのベンチに座っていよう。

他力本願を決め込んだ僕はそのままベンチに居座った。僕を横目に何組も宿泊客がホテルへと入っていく。当然、誰も声をかけてこない。
その時、向こうから日本語が聞こえてきた。
聞き間違いではなく、日本語!
日本人観光客だ!
きっと「どうしたんですか?」と声をかけられるに違いない!と思った刹那、彼らは僕を気にも止めずホテルへと入っていった。
今振り返ると「すみません」と一言自分から声をかければよいのだが、その瞬間はそんな勇気も考えもなかったのだ。

このままでは、本当に野宿になってしまう。
それだけは避けなければいけない。
“誰かがきっと助けてくれる”
そう思っていたらずっとこのままだ。自分でなんとかしなければ!
不思議と、そう思ってからの行動は早かった。
ダメ元で、ホテルのロビーにどうしても今日泊めてくれないか、と交渉しに行ったのだ。
受付はさっきの朴訥な男性ではなく、相撲取りのようにふくよかな女性に変わっていた。
答えは、もちろんノー。
今日は満室よ、と面倒くさそうに断られた。
しかし、ここで諦めては野宿決定だ。
僕は必死に、
「飛行機がキャンセルになった」
「しかし宿はない」
「他のホテルもすべてsold outなんだ」
と英単語を並べて必死に頼み懇願する様に「please」と頼み込んだ。
女性は困った顔をしていたが、すると、奥からさっきの朴訥なホテルマンが現れた。
彼は何か英語で説明し始めたが、それが「部屋は用意できる」という意味のことだと理解するまで時間はかからなかった。
どんなことをどんな表情で言われたか覚えてないが
「OK」
と言われたことはしっかり覚えている。
金額を提示され、パスポートを差し出し、クレジットで支払いを済ませるとルームキーを渡され部屋に案内された。
ベットに横たわる。
ふかふかだ。
なにか、大冒険をしたような高揚感だ。
安心感と高揚感から、急に僕は日本の大学の友達に国際電話をしたくなった。
当時、ボーダフォンの国際電話だ。1分50円だったか100円だったか分からないがとにかく高額だった。それでもこの状況を伝えずにはいられない。
大学です特に仲の良かった友人に電話をかけた。
いやー!アメリカにいるんだけど飛行機飛ばずにホテル探しに彷徨って、無事ホテルに泊まれたよ!と興奮気に話し、ごめん、ところで今何してたの?と聞くと
「笑っていいとも!見てるわ」
ずっこけそうになったが、そうかフロリダは夜の10時。日本は正午だった。

こうして、波乱にみちたフロリダの夜は更けていった。
そして、翌日ボストン行きの搭乗ゲートにて
「茶道を習いたい」
と思う出来事に遭遇する。

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