3Dが社会を紡ぐ~3Dプリンターで大失敗して気づいた、人が機械を繋ぐこと~
みなさんこんにちは! ユタカ産業のOと申します!
気づけば今年ももう折り返し地点ですね。光陰矢の如し、時が経つのは早いものだと感じます…。先日エアコン内部を掃除していた際に腰を痛めて痛感いたしました。老いたな、と…
さて! 今回は弊社に入ってきた新入3Dプリンターのご紹介から、造形にまつわる挫折話、GWに私を待っていた絶望の現実、そこから掴んだ栄光の話を当時の心情を露わにしてつらつらと綴っていこうと思います。
1.堂々たる業務用風格、Raise3D pro3 plus
まず最初に紹介するのは、弊社のニューカマーマシン! GW直前に稲妻のように入ってきたこちらの3Dプリンター、Raise3D pro3 plus。
Raise3D pro3 plus
特徴
造形範囲はH600×W300×D300という大きさ! 私の息子(2歳5か月)がたった2回で印刷できますね!
便利なのがクラウドからデータをプリンター本体に飛ばしてリモート造形も可能、また内蔵カメラで印刷の途中経過もチェックできる優れもの! 遠隔で造形の一時停止、中止もできるので遠くにいても安心です。
スライスソフトのideamakerはやろうと思えば層ごとに印刷設定を変更できる優れたソフトで、造形の奥深さをサポートしてくれます!
フィラメントは一般的なABS、PLAから木材気質なもの、更にエンジニアリングプラスチックと高度な材料まで幅広く使えます。
ここまでできて、お値段は130万程度と、業務用としては低価格な割にパフォーマンス良し。
この度、このRaise3D pro3 plusが新しくユタカの一員としてモノづくりを共に進化させていくこととなりました。
元々3Dプリンターは弊社にあったのですが、以前の記事にもございました3Dプリンター、「サエバ君」。こちらは家庭用のプリンターで、今後制作予定の造形物の大きさには少し手が届かず、今回Raise3D pro3 plusを購入に至りました。
3Dプリンターのサエバ君の活躍は、こちらをどうぞ!
2.まずは試し刷り
扱いやすい材料のPLAを装填し、マニュアルを片手に一通り設定を終えました。さて、試しに印刷してみるか。と、付属してあった3Dデータをポンとスライスソフトへ。
なんか見た目、コイン、とかですかね? ちょっとわからないですが、まぁいいか、と中身を理解しないまま標準クオリティ設定でレッツ初出し! 1時間程度で完成しました。
うん、これで標準クオリティだったら文句はない、ただ簡単な造形なので些か甲乙もつけがたいなとは思いました。
しかしここで思わぬ衝撃を受けます。
よし、それじゃあ次の試し刷りするか、とべりッとプレートから外した時、カラン…と何かがぶつかる音がしました。
こ………、こいつ……動くぞ…ッ!?
お試しデータで、一発造形の中のコインが動く構造物を出してくるとは思いませんよね? お試しデータと言えば単純なモデル、そんな先入観があったので中身をよく確認しておらず、社内で私は「KUAAA……SUGEE…」と興奮気味に身悶えし、独り言を漏らす始末。恥ずかしや。
3.いざ本番!
回るコインの印刷で、すっかりほくほく顔で調子に乗った私。中身のない無敵感を獲得した私の頭によぎったのは、とあるデータの出力でした。
これなら、アレ、いけるな…
卑しい笑みを浮かべながら思い描いていたのは、上の写真の什器のミニチュアでした。これを少しボリュームのあるサイズ感で出さねばならず、ちゃんと印刷できるか早いところ検証したかったのです。
GW中に印刷しておいて、出勤日に綺麗な試作ミニチュアとご対面、それがベスト…そうと決まれば印刷だッ!
短絡的で直感的な私の脳味噌は面舵を切りました。
GWの火曜にスライス!
そして造形時間チェック!17時間!
ネットに繋げれば内部カメラでリアルタイム造形状態チェック可能!
OK…LET’S PRINTING!!
印刷開始ボタンを押し、ある程度の高さまで様子を伺うも、問題はなさそう。次の出勤は木曜だ、よし、帰ろう!
この時、根拠のない自信が南アルプスの天然水の源流のようにこんこんと湧き上がっていたのですが、私自身は3Dプリンターのオペレーターとしては完全に初心者だったので、右も左もわかっていない純粋無垢なド素人。わかっていないことすら気づけていない、そんな状態だったのですが、機械の品質の高さの一端を覗いて、初期設定で大体かも! というバカバカしい勘違いから謎の慢心を膨らませていたのです。
そして私はこれから、壊れた方位磁針片手に、Tシャツ短パンで真冬の南アルプスを単独登頂しようと足を踏み込んでいたことを、深く思い知ることになるのです。。。
4.失敗 オブ ザ イヤー 受賞
帰宅してから造形が気になり、パソコンを立ち上げRaise3Dのソフトをチェック。ここで本来であれば内部カメラでリアルタイム動画を確認できるのですが、
あれ? できないな…。
いつまで待っても動画が流れてくれません。なぜだ?
実はこの時3Dプリンターとパソコンが同回線で繋がっていないと動画が見れない、という事実を私は知らなかったのです。自分がTシャツ短パンであることにようやく違和感を覚え始めました。あとなんかちょっと寒い? 気がする。
一気に不安になってきましたが、とりあえず会社を出る前は大丈夫そうでした。気にしても仕方がない。全ては木曜日にわかる。おやすみなさい!
それから2日後の運命の木曜日、ドキドキしながら職場を訪れると、椅子に座っていた私の上司が3Dプリンターの方に親指を向けてニコッと笑いました。
おおお!? できているのか!? できているのかーッ!?
テンション爆上げで私はプリンターのある部屋へと赴くとそこには、
…………嘘だろ。いや、てかちょっと待って
なぁにコレェ。
誰か、海老天出しましたかね?
この海老天モデリング完成度高いですね。
いいえ、そうではありません。私は震えました。失敗の次元が今までの仕事上経験したことのない見た目だったので、私の喉仏が無意識に上下に動きまくります。これを見た時はまるで少し裂けた魔界の門からデーモンが私へ手を伸ばしているように感じておりました。
一体なぜこの海老天が出てきたのでしょう。私は推測を始めました。
恐らく順番としては、
1、印刷途中で造形物に反りが生じ始めた。
2、生じた反りによってプレートから造形物が剥がれた。
3、ノズルが空を回り、フィラメントが何もない場所で吐出し続ける。
4、どこかのタイミングでフィラメントが熱したノズルに付着し塊になっていった。
そのなれの果てが海老天、という今回の一連の流れではなかろうか。
私は自分の甘さにようやく気がつきました。そして起きてしまった事故を後悔しながら、3Dプリンターが大丈夫なのか、壊れていないのか非常に心配しておりました。両脇から嫌な汗がドバドバ滝のように流れ始めます。
それから私はしばらく沈黙したまま、私の罪の塊をノズルからゴリゴリ剥がしつつ、粛々と反省を始めたのです。
5.傾向と対策
それから私は必死に造形成功に関する情報をかき集めました。
「あんなふざけた物体はもう見たくない」
恐怖感にも近い感情と、塊を片付ける後処理が奪う時間を、私は二度と経験しないと強く誓ったのです。それに機械を壊して謝りたくもありません。
再度戦いを挑む前に、使えそうな武器をラインナップします。
【造形前の準備】
1、フレキシブルプレートにマスキングテープとPitのりを使う。
左:3Mのマステ 右:百均に売っているPitのり、シワなしがよいらしい
通常、プレートだけではフィラメントの食いつきがそこまでよくはない、というのが3Dプリンター界隈では常識です。大丈夫でしょ、と甘く見た私は洗礼を受けたのでプレートオンリーは絶対にお勧めできません。上記したコインのように簡単なものなら大丈夫ですが、反っていく造形物を少しでも繋ぎ止めるため、彼らが大いに役立ちます。
貼って試し刷りをするとわかりますが、食いつきが全然違います! これをするだけでもただならぬ安心感がそこにありました。祖母の家の匂いを思い出します。
2、印刷向きを考えよう
反りは熱が冷めた時に発生し、また一層ごとの面積が大きければ、その分材料の収縮する力が強まります。収縮は冷えた下層から始まっていき、丸まったアルマジロのように内側に縮みます。収縮の力に耐えられないと、端から反っていき、プレートから剥がれたり、後の造形に影響を与えます。
前回、造形物の背面をプレートに寝かせて印刷しました。その方が棚板部分などにサポートをつけずに印刷でき、時間短縮になると考えていたのです。
【縦置き 青色部分がサポート】
しかし今回は反りや造形物の剥がれのリスクを減らそうと、層ごとの印刷面積の少ない縦置きを検討しました。長時間かかっても少しでも安定安心できる方でないと、既に反り過ぎた私のメンタルが剥がれて虚無に落ちそうでした。
3、カメラでちゃんと確認しよう
これがあの恐怖を生み出さないための直接的な方法です。当時社内の同回線で繋がっていた時は動画で見れていたので、いつでもカメラで確認できるだろうと完全に油断してました。代理店様に確認したところ、別回線では動画は見れず、内部カメラで撮った静止画が見れる、とのこと。回線の混み具合にもよりますが、静止画をチェックする時2,3分待つと静止画がクラウド画面に映りました。
あの時は動画がチェックできなかったことでテンパって、すぐに画面を切り替えてしまったのが運の尽きでした…。モノづくりにせっかちはよくないですね。
4、ラフトを設定しよう
ラフトというのは、実際に造形物本体の印刷をする前の下地を指します。これがあるとideamakerでラフトへの造形物本体の食いつきをある程度設定できるようになるので反りの抑止力として効果を発揮します。
本来であればこちらを使うべきだと思うのですが、事前にネットで得た情報だとラフトはつける、つけないと意見が割れていたので、迷っていました。
検討しつつ、最初は実験としてナシでやってみることに。(大丈夫かよ…)
とりあえずここまで揃えたので、そろそろ試しに戦っていきます。
今回はちゃんとカメラ起動も確認済みなので、大丈夫です!
6.造形成功
それでは上記の武器を踏まえて、いざ出陣。
マスキングの上にしっかりと食いついて印刷されていきます。
無事に背を伸ばしていくと、
とりあえず最初の棚まで来ました。まだ順調です。
この棚板の上に再びサポートを生やしていきます。棚の間に作ったサポートが取れなくなると嫌だったので、空き気味にしていました。
定時時刻の時にはまだ最初の棚板しかできていませんでした。
ここから先はカメラを家でチェックししながらの状態です。あのノズルの仇は、絶対取るッ! 私が仇のような気もしますが!
帰宅するとすぐに静止画をチェック。時刻は20時。
OK、まだ大丈夫。
チロチロと見続けながら12時まで見守り、異常はなさそうです。
頼む、このまま突破してくれ! 私は寝る! よろしくお願いしまーす!
とか言いつつも、午前3時、不意に目を覚まします。やはり途中経過が気になって仕方がなかったのです。この数時間で戦況が変化していても不思議ではありません。
カメラをチェック。なんということでしょう。
もう屋根の方まで差し掛かっているではありませんか!
これはさすがにいっただろう。よし寝よ!
翌日、ご対面にワクワクしながら出勤すると、椅子に座っていた私の上司が3Dプリンターの方に親指を向けてニコッと笑いました。
でッ……で、出来てるッッッッッッ! よっしゃぁぁぁあああああ!!
ちゃんとこのミニチュアを肉眼で拝んだ時、久々に得も言えぬ達成感を得ました。一時は3Dプリンター壊してしまったのでは、と思うほど強烈な洗礼を受けてだいぶへこみましたが、ここまで造形できた時、今までの負の思考が全て吹き飛びました。最初の到達点に手がかかったと感じたのだと思います。南アルプスを登頂したこの時、そこから見た景色は格別でした…。この山を登る装備を得られたことも、感動です。
7.失敗での学び
今回の失敗で学んだことですが、
業務用の3Dプリンターを運用していくとなった時、家庭用3Dプリンターより価格が全然高いのだからその分機能も十分あるだろう、という意識がやはり頭のどこかで根を生やしていたかもしれません。
3Dプリンターで作った、どこかで見た綺麗なフィギュアや粗のない製品。それらは単純に高品質な3Dプリンターを使ったから生み出せたわけではなく、間に入った人が知識とノウハウを活かして印刷を調整管理していたからこそ生み出せるものなのだ。この失敗で改めてそう思い直せるいい機会でした。
「高い機械はボタンを押すだけで後はうまくいく」
そんなことはないのです。機械と人は密接に関わっていて、骨と筋肉のようにそれぞれだけでは完結できません。それぞれが役割をこなすことで、初めてちゃんとした機能を発揮し、良い物を生み出すのです。
私は普段アクリルの加工を担当して色々な機械を触っているので、それはわかっていたのですが、今回は反省しました…。でも頭の中のサボりの雑草を刈り取る機会になったので、良しとさせてください!
これから更に3Dプリンターを使って、自分の力を進化させていきます。
その分だけ3Dプリンターも答えてくれるでしょう。
相棒の力を引き出せるように頑張ります!
もし3Dプリンター購入を迷われている方いたら、一緒に南アルプス登ってみませんか? 楽しいですよ!
それでは、また次回お会いしましょう!