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【AISTS #28】 23週目 外出自粛2週目/アンチドーピングと税制の講義 (2020/3/23-29)

スイスでは外出自粛の日々が続いています。
引き続きオンラインで、前半は法律、後半はリーダーシップの講義でした。

スイスでの新型コロナウイルスの感染者はこの1週間で倍以上に増えて、3月29日午後の時点で感染者数は 14,354人、死亡者数は278人です。総人口が857万人なので、感染者数の比率は高いです。
外出禁止令は出ていないので、食料品の買い物やジョギングなどは可能です。

スイスの公式発表のデータをまとめたサイトです。

法律の講義 ― ドーピング

スポーツにおけるドーピングは、世界ドーピング防止機構(WADA: World Anti-Doping Agency)によるアンチ・ドーピング規程に沿って対処されます。
規則違反は、一般的にイメージされる「採取した尿や血液に禁止物質が存在すること」以外にも、検査の拒否、居場所情報の報告漏れ、禁止物質の所持などの10項目が対象となります(詳細は以下のリンク参照)。

2021年1月からは、新しいアンチ・ドーピング規程(2021 WORLD ANTI-DOPING CODE)が施行されます。
上記リンクの10項目に加えて「当局への報告に対する妨害や報復」が追加されます。

一つの特徴は、以前の記事でも触れた Strict liability(厳格責任)です。
故意であったかどうか、過失であったかどうかは関係なく、上記の項目に該当する事象が発生した場合には、処分の対象となります。

Strict Liability: The rule which provides that under Article 2.1 and Article 2.2, it is not necessary that intent, fault, negligence, or knowing Use on the Athlete’s part be demonstrated by the Anti-Doping Organization in order to establish an anti-doping rule violation. (WADA Code)

基本的には、スポーツ界の中での処分(資格停止、罰金など)となりますが、国によっては刑事罰が科される可能性もあります(イタリア、スイス、オーストリアなど)。
原則、当該事象が発生した大会等を管轄している組織が処分を決めます。例えば、日本のサッカー天皇杯で発生した場合はJFAですね。

その処分に対して、対象となる選手はもちろんですが、関係する他の組織も上訴することができます。
例えば上記の天皇杯の場合、JFAが下した処分に対して、FIFAやWADAが十分でないと判断した場合には、より厳しい処分を求めてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に上訴できます。

ちなみにチームスポーツにおいては、あるチームから1人の違反者が出た場合は個人の処分ですが、2人以上の場合はチームを対象として勝ち点剥奪、資格停止、罰金などの処分が科されることが原則です。

法律の講義 ― 個人所得税

スイスにおける、主にアスリートに関連する個人所得税についての講義を受けました。
一般的なポイントは以下の通り。

・連邦税と州税がある
・個人所得税は累進課税で最高税率45%(連邦税と州税の合計、州による)
・所得税とは別に富裕税(総資産の1%未満)が課される
・私有資産の売却によるキャピタルゲインは非課税
・配当所得には35%の源泉課税

アスリートの場合は、スイスに非居住であっても、所得の源泉(performance)がスイス国内であった場合には課税されます。
税法では「who perform (physically or intellectually) in public」と定義されていて、performance income に対しては税率が別途定められており、通常の個人所得税よりも低いです。大会主催者に源泉徴収義務があります。
賞金以外のスポンサー収入や広告収入が、スイス国内源泉所得かどうかの判断は議論のあるところですが、基本的には当該大会に直接関係があるものであったかどうかがポイントです。

スイスの特徴的な税制の一つに、ランプサム税(Lump-sum Taxation)があります。
主な対象は、スイスに居住する外国人で、国内で就業しておらず海外所得が中心の人です。
通常の所得税の代わりに、「家賃相当額の5倍」といった基準で課税ベースが算出され、定額の税金を支払うことができます。
一般的に通常の所得税よりも低額となり、アスリートを含む高額所得者にスイスで納税してもらうことを意図した仕組みと言えます。

リーダーシップの講義

先々週に続いてのリーダーシップの講義で、パーソナリティ、チームビルディングなどがテーマでした。

印象に残っているのは Five Factor Model ('Big Five') と呼ばれる、パーソナリティを規定する5つの要素です。

• Emotional Stability (Neuroticism):精神的安定性
• Extraversion:外向性/内向性
• Openness to Experience:経験への開放性
• Agreeableness:調和性
• Conscientiousness:誠実性

良い悪いではなく、自分や周りの人の特性を理解することが重要ですね、というお話でした。

その他の活動

先週の社会学の講義を踏まえて、600語のレポートを先ほど提出しました。
スポーツとグローバリゼーションについて、メディア、移民、経済発展、外交、平和実現から1つのテーマを選んで、社会学の観点から説明できること/できないことを整理し、あるスポーツと地域に関する Critical Review をしなさい、という課題でした。
以下、簡単に僕の回答のポイントです。

【テーマ】グローバルスポーツと移民の関係
・帝国主義(Imperialism)、従属理論(Dependency Theory)、世界システム論(World Systems Theory)による移民パターンの説明
・日本では、高度熟練労働者(アスリート含む)の受け入れが進んでいない(国民性、移民制度)
・ラグビー日本代表の外国籍選手(経済的メリット、代表資格)の活躍(→排他的ナショナリズムへの影響)

チームプロジェクトは週2回のウェブ会議でほぼ通常通り進行中です。

クラスメイトとは一緒にオンラインで講義を受けてはいるものの、学生間のコミュニケーションはほとんどないので、水曜日の夕方に軽くオンライン飲み会をしました。
何を話すわけでもないですが、みんなそれぞれの環境でストレスを抱えながらも明るくやっているのを見て、ちょっと気が紛れました。

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他の時間は読書、映画、ジョギング、筋トレ。
今週で印象に残っているのは「紅の豚」。久しぶりに観ましたが、ポルコ・ロッソ、かっこいいですね。
Netflixにジブリがほぼ全作あるのを見つけて(日本は対象外のようですが)、週一くらいのペースで懐かしく観ています。 

あとTwitterは、この状況で陰謀論とか恣意的な引用や解釈による批判がやたらと多くなって、精神衛生上よろしくないので、少し距離を置いています。

来週の予定

前半はプレゼンテーションの技術、後半はスポーツイベントの持続可能性についての講義です。
引き続き、外出自粛、オンライン講座、ウェブ会議の日々です。


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