暑い季節が来たら観よう『異人たちとの夏』の感想
脚本家の山田太一さんの自伝小説であり、大林宣彦監督作『異人たちとの夏』の感想です。1988年公開の松竹映画です。
軸となるのはホームドラマですが、ホラー要素も多分に入っており、大林監督独特の少し怖い世界を味わえます。ちなみにこちらは9月に公開されました。残暑のシーズンです。その時期でも良さを味わえると思いますが、夏の暑さを感じ始めたら見ごろだと思います。アイスクリームと一緒です。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。あくまで個人の感想です。
主人公はシナリオ作家という時点で、山田太一は自分のことを描いたことがすぐにわかった。妻と子どもと別居状態で、しかもその妻と結婚したいと願い出るプロデューサー、何かドロドロの関係が始まりそうだと思ったら、話の中心になるのはそこではなかった。浅草演芸ホールで亡くなったはずの父親に似た男を見かける。その男は主人公が自分の息子だとすぐに分かり、一緒に家へ帰ると同じく亡くなったはず母親が料理を拵えて待っているのである。子どもの頃に失った両親と一緒に過ごせる喜びを味わった主人公は浮かれ気分となり、幸せの最高潮に達するのである。しかし、鏡を見ると顔が少しずつやつれていくようになり、それを周囲からも指摘されることが増えていく。
両親に会うことで顔が歳を老いていくことを知った主人公は、自分がこれ以上醜くなりたくないと思いながら、子どものころに亡くした両親と少しでも長く一緒に過ごしたいと願い悩む。同じマンションに住む女性と親密な関係になっていく。実はこの女性は主人公と出会った日に自殺をしていたことが明らかに。何の伏線があるわけでもなかったので驚きはなかったが、女性が亡霊に化けるシーンで大林監督のホラー節炸裂。わけわかんないところも含めてちょっと怖くて面白い。いつの間にか身の回りにやってきて夢を見させてくれた夏の霊たちから放たれた主人公。清々しいけど寂しい表情した風間杜夫の演技が素晴らしい。
この時代の浅草は今とそんなに変わらないのではないかと思っていたが、作中でふと大きなホテルを見つけたとき、下町の風情が少しずつ失われていくのが見えて寂しさも懐かしさも感じられた。約40年前の作品だが時代の古さを感じさせない設定で見応えあった。
今回初めて映画感想の記事ですが、時間を多くかけず読めるように縛りを800文字にしています。これからこのような映画記事がまとまったマガジン(エイトオーオー)を作りました。感想は決して嘘ではないですが、映画は真実味を帯びた虚構であり、ゴロも良いのでそう名付けました。これから随時掲載していくので興味が湧いたらアカウントで読んでみてください。自分でも長く続けられることを祈っています。
...映画をつぶやくエイトオーオー vol.1
『異人たちとの夏』【1988】監督:大林宣彦 原作:山田太一 脚本:市川森一
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