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行動変容デザインの特徴 −『行動を変えるデザイン』を読んで②

- この投稿では,Stephen Wendelの提唱した行動変容デザインについてそのプロセスを示し,プロダクト開発でよく説明されるプロセスとの違いについて説明をします.-

NiziProjectを見終わってしまいました.最後まで何があるかわからず,現実があり夢があり愛があり,見る人にとってはドラマでした.

はじめに

『行動を変えるデザイン』という本を読んで,実装案を練るときの思考フレームとして導入してみたのでその話をしようと思います.前回のブログをまだ見ていない方はそちらから読んでもらえると幸いです.

今回と次回で,”行動変容デザイン”のプロセスに着目し,特徴的だと思う部分を3点解説したいと思います.その3つの特徴とは,
1.企業の目的の手段としてプロダクトを作っても良いではないか
2.起こしたい行動を決めてから,ペルソナを複数立てる
3.行動変容デザインはUXデザインではないということ(次回)
というものです.

行動変容デザインのプロセス

「理解」「探索」「デザイン」「改善」という4段階が行動変容デザインのステップとされていますが,「理解」のパートで書かれた内容は方法論ではなく知識なので,本ブログではプロセスには含めません.実務でのプロセスが書かれているのは「探索」以降の部分です.概要は以下の通りです:

行動変容デザインのプロセス
1.プロダクトビジョンを定める
2.経営目標を定める(*)
3.ターゲットアウトカムを定める
4.ターゲットアクションを設定する
5.ターゲットアクター・ペルソナを考える
6.ターゲットアクターの行動を整理する
7.インターフェイスデザイン
8.実装
9.効果測定・改善

用語にとらわれずに考えると,以下のように咀嚼するのがよいでしょう:

行動変容デザインのプロセス(要旨)
1.”なぜプロダクトは開発されるのか?”の答えを明確にする
2.事業が達成したいKPIとターゲット値を定める(*)
3.何を達成したいのか明確にする
4.そのための行動を明確にする
5.その行動にどう反応を示すのかでペルソナ分けする
6.ペルソナの一連の現状の行動を整理する
7.インターフェイスデザイン
8.実装
9.統計的に正しく改善する

(*)は企業中心アプローチの場合のみ必要とされているのですが,まずはこれについて説明します.

ユーザー中心アプローチと企業中心アプローチ

本書の興味深い主張の一つは,プロダクトには2種類あり,ユーザーに価値を届けることが目的であるものと,それが手段であるものとを双方認めている点です.前者をユーザー中心アプローチ,後者を企業中心アプローチと命名しています.

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売上を改善したいから・新規事業を立ち上げたいから,というような企業目線での動機で開発されるプロダクトもあると念頭においてプロセスの説明にページが多く割かれています.

誤解を恐れずに例を挙げれば,メルカリとメルペイが良い対比かもしれません.メルペイは金融分野での新規事業を目的として設立された会社に沿ってプロダクトが開発されたという点で,企業中心アプローチとも受け取れます.

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メルカリのプレスリリース

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メルペイの機能第一弾プレスリリース

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メルペイが実際に企業中心アプローチだったかは別として,そうだったとしても,ユーザーが良いと思うプロダクトになっていれば全然問題ないのです.こうした考え方は,プロダクト/開発者サイドとビジネスサイドでの余計な議論(”利益中心で考えるのはプロダクトじゃない”とか)をなくしてくれます.

結果的に人々の好まれるプロダクトならアプローチは問題ではないというのは,現実的であり実務的だと思います.

ペルソナが先か・起こしたい行動が先か

行動変容デザインではターゲットアクションを先に明確にし,その後ターゲットアクターとペルソナを組み立てていきます.通常まずはペルソナを明確にしようとすることが多いですが,行動変容デザインでは「どのような行動を引き起こしたいのか」を先に考えます.この行動に対してどのように反応する人がいるのかを考えて,反応別にグルーピングしてペルソナを作る,というのが本書でのプロセスになっています.ペルソナ→行動ではなく,起こしたい行動→ペルソナ.

例えば「個人が資産形成すること」をターゲットアウトカムに据えた場合に,「お釣りを貯金すること」を具体的なターゲットアクションとして定めたとします.この行動に対して倹約家の人,お金遣いが荒い人では反応が異なるでしょうし,面倒くさがりな人も別の反応を示す可能性がありそうです(MECEなのが理想ですが).なのでそれらを別々のペルソナとして見立てて,ユーザーストーリーを組み立てようという考えです.

この思考順序のメリットは,あらゆる可能性を検討することができる点です.例としてBtoBの労務SaaSを作ることを考えてみましょう.ペルソナから考え始めるとどうなるかというと,詳細な労務担当者をペルソナにすると思います.でも実際の現場を考えれば,担当者の上に管理者がいて,その上にコーポレート部門の本部長がいます.ペルソナから入ると,最も典型的な1ユーザーに集約されてしまい,マネージャーなどの少数派のユーザーが抜け落ちることがあります.一方で,行動変容デザインにしたがって成果と行動を先に決めると,例えば

ターゲットアウトカム:労務の業務効率化
ターゲットアクション:入社手続きをパターン登録しておく

と決めて,これに対してアクターがどう反応を示すか検討することで

・「丁寧に登録しよう」という真面目な担当者
・「入力が面倒,ころころ変わるし」という雑な担当者
・「そもそもパターンが増えないか管理しなきゃ」というマネージャー

の立場が浮き彫りになります.

複数のペルソナを据えることが重要なわけではありませんしかし,プロダクトは基本的に誰をペルソナに置くかで実装のPrioritization Gridの結果が変わるので,ペルソナは重要です.だからこそ思考の漏れをなるべく防ぐためにも行動起点で考えて幅広いペルソナの想定をするプロセスはとても有意義だと思います.

おわりに

”行動変容デザイン”のプロセスに着目し,特徴的だと思う部分から2点解説しました:
1.企業の目的の手段としてプロダクトを作っても良いではないか
2.起こしたい行動を決めてから,ペルソナを複数立てる

次回は「3.行動変容デザインはUXデザインではないということ」をお伝えします.

前回のブログでも記載しましたが,プロダクト開発において大事なのは実装するメンバーが共通言語で会話できることだと考えています.

チームで様々なフレームワークを共有する時間を作り,インターフェイスや機能をデザインする際の会話をスムーズにすることが重要です.特にデザインプロセスの専門家ではないエンジニアがこの領域に体系的知識を持って歩み寄ることがスタートアップのプロダクト開発の成果を大きく飛躍させると考えています.



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