「信じて、任せる」ために捨てなければいけない、4つの幻想
今回は「信じて、任せる」ということについて書きたい。(キャスターへのM&Aの話を期待していた人はすみませんwそれもどこかで書きます)
支援先の経営者・リーダーの2人に1人くらいからこの相談をいただく。私自身、自分の会社やこれまでのキャリアの中で「任せることの難しさ」と向き合ってきており、4つの幻想という形にまとめてみた。
ここで紹介する幻想に惑わされないことで、少しずつではあるが「信じて、任せる」チームに近づくことができたと感じている。
同じような悩みを抱えるリーダーに届くと嬉しい。
【1】「自分がやった方が早い」という幻想を捨てる
「いま自分が30分でやってしまうより、2時間かかったとしてもメンバーに任せた方が長期的には良い」というアタリマエのことだが、実践し続けることは思いの外難しい。
これは知り合いから伝聞した話だが、「良い漫画家」はアシスタントにベタやトーン、背景の細かい指示はしないのだそうだ。
「こんな感じでバーっと描いてみて」とざっくりの指示をして、そのあとパースのズレや自分の違和感をフィードバックする。アシスタントは頭を捻って、何とか食らいついて、成長していく。
週刊誌のような(あるいはスタートアップのような)ハイスピードでアウトプットをするチームにおいて「何でもかんでも自分でやる」ことをやってしまうと破綻するということだ。
フィードバックや手戻りによって数万円の時給が追加発生したとしても、それは(機械ではなく)人に依頼をするうえでの必要経費だと割り切る。これが「信じて、任せる」ための第一歩と言えるだろう。
【2】「即戦力」という幻想を捨てる
どんなにハイスペックで即戦力なメンバーでも「信じて、任せる」までには半年かかるというのが持論だ。(そもそも "即戦力" ってなんなんだろう)
メンバーの表面的な経験やスキルに目を奪われ過度な期待をしたが、成果が伴わずガッカリした経験は無いだろうか。
私自身これまで3つの会社(うち2社はフルリモート組織)を役員として率いてきたが、特にリモートのオンボーディングは時間がかかる。「信じて、任せる」ためには、仕事の内容を理解してもらうだけではなく、チームの価値観/共通言語/期待値に触れてもらうことが必要不可欠だからだ。
▼価値観や共通言語に触れるために有効な仕組みの一例
・過去の成果物へのアクセシビリティ
・トランザクティブメモリーを高めるためのレビュー体制
・チームメンバーとの交流/協働の機会
こういうものが最低限揃っていたうえで私たちのチームでは「一律、半年」というオンボーディング期間を設けている。
2-3ヶ月経ってもメンバーがなかなか立ち上がらずやきもきするリーダーもいるだろうが、時間をかける覚悟を持つことが「信じて、任せる」につながることを認識したい。
【3】メンバーは自走できるという幻想を捨てる
「うちのメンバーはみんな優秀で自立しているから、勝手に自走して成長する」というのは、創業期の超極小チームの理屈だ。組織が大きくなっていく中でこの幻想を抱き続けていると、どこかのタイミングで「信じて、任せる」ができなくなる(私自身、過去にそうなった経験がある)。
そこで重要になるのが伴走の仕組みだ。「信じて、任せる」ということと矛盾じているようにも聞こえてしまうが、この伴走の仕組みがあるからこそ任せられるのだと考えている。
私たちのチームでは具体的に2つの仕組みを通じて、メンバーが自分の力で走れるようにサポートしている。
①1on1を通じた「振り返り」のコントロール
②業務のアサインを通じた「プレッシャー」のコントロール
①の1on1でどんなことをやっているかは下記のkibelaにまとめているのでそちらを参照いただきたい。1on1はメンバーのガス抜きの役割がありつつも、基本的には個人の振り返り・PDCAを促進させる目的で隔週実施している。
②のプレッシャーコントロールについて、私たちのチームでは入社半年後から顧客支援を各自が担当する仕組みになっている。
新しいクライアントへ支援を開始する場合、リーダーであるワタリが同席するのは支援開始の1ヶ月目だけ。2ヶ月目からはメンバーが1人で顧客を担当する。
私たちチームの仕事は御用聞きして手を動かすだけでは価値が出ない。これまで多くのスタートアップの経営を支援してきた経験から、「何をしなければいけないか」を考え、提案し、実行するのがこのチームの価値だ。
それをメンバーが1人で回すことが適度なプレッシャーをもたらすとともに、「信じて、任せる」ことの入り口になっている。
【4】自分(=リーダー)が介入すれば、メンバーは成長するという幻想を捨てる
ここまでは「何でも間でも丸投げするのではなく、適度に伴走すること」の大切さを描いてきたが、逆に「過干渉」についても気をつけなければいけない。
リーダーの過干渉はメンバーの思考を停止させ、周囲の意見聞かないと動けない状態に貶めてしまう。結果的に「信じて、任せる」ことから遠のいてしまうわけだ。
たとえばメンバーとの1on1。話がうまくまとまっていなかったり、議論が飛んでしまう場面を想像してほしい。
+「信じて、任せたい。けど、話の論点がわからん」という心境だ。賢いあなたは、どうしても会話の途中で「つまりこうだよね?」とか「●●したらいいんじゃない?」と、結論を先行して伝えてしまいたくなるだろう。
こんなモヤモヤに遭遇したときには、ある問いかけがおすすめだ。
「So what? (=で、どうしたい?)」
この問いかけは2つの役割を持っている。
・結論から話させ、メンバーの思考をいったん整理させる
・もう一度、メンバーに会話のボールを戻し、自分の言葉で話させる
この問答を繰り返すことで、メンバーは自分で考える主体性を身に付けるだけでなく、「このリーダーは自分の話を聞いてくれる」という信頼関係の構築にも繋がる。
信じて、信じられて、任せるわけだ。
補足:魔法の質問 "So What?"について
上の記事にもあるように、
So What? / Why So?
は有名なフレームワークだが、「信じて、任せる」が苦手な人ほど、Why So?(なぜそう考えるの?)はよく聞くが、So What?(で、どうする?どうしたい?)をあまり問いかけない傾向にあると感じる。
この2つの質問をバランスよく使えているか。「信じて、任せる」ことに悩んだ人はぜひ自分に問いかけてみてほしい。
まとめ
「4つの幻想」としてまとめたが、要約すると「丸投げはダメ、過干渉もダメ」ということに尽きる。
そしてこれはリーダーに限ったことではなく、メンバー同士のコミュニケーションにおいても重要なことだ。
丸投げと過干渉の間のバランスを保つというのはなかなか難しいことだが、「4つの幻想」を日々自覚することで、一歩ずつ強いチームになっていくと信じて日々やっている。
私たちのチームでは絶賛採用中なので、これから出会う人や一緒にお仕事するメンバーには今後この記事を送りつけていこうと思う。
以上!