死人に梔子
家を出て斜向かいにゴミ出し場がある。
「ゴミ出し場」といっても、そこに特に何かあるわけではなく、T字路の曲がり角、電信柱の横がそのT字路周辺住民の指定の場所というだけだ。カラス避け用のネットが一応はあるが、出されるゴミの量に対していささか小さすぎるそれがきちんと使われているところも、カラスがゴミを啄んでいるところも、ついぞ見たことがない。そこにはいつも平和な空気が流れている。
その平和な空気を察してのことだろう、先週の暑苦しい夜中、涼を求めてアイスを買いに行く途中、週に何度かゴミが小さな丘を作っているその場所のちょうど真上に、手のひらほどの大きさの白い花が一輪咲いていた。
花に顔を近づけると、湿気を帯びた暑苦しい夜の空気に、官能的なまでにねっとりと絡みつく豊かな香りが鼻腔をついた。
梔子だった。
「梔子」と書いて「クチナシ」と読む。いわゆるガーデニアと呼ばれる花だ。
まだ季節は始まったばかり。これからしばらくの間、家を出る時、帰ってくる時、そしてもちろん、ゴミを出す時の楽しみになりそうだ、と私は心の中で小躍りした。街中で会う季節の花はいつだって嬉しいものだ。
最初は1輪だった梔子が、日を追うごとに、1、2、3、5、8、13…とフィボナッチ数列で増えていった…
…かは定かではないが、だいたいこんな感じのペースで花は増えていった、ように私には見えた。
私はこのまま、フィボナッチ数個の花をつけた梔子を、梅雨入り前の蒸し暑さの中で愛でる日がしばらく続くものとばかり思っていた。
それはある朝のことだった。家を出ると、そこにはショッキングな光景が広がっていた。
石塀から道路側にせり出していた梔子の木が、石塀の延長線上できっちりと、まるで「キリトリ線」が予めそこにあったかのように切り取られていたのだ。
フィボナッチ数個の梔子の花は、すべてこの「キリトリ線」から道路側にいた。断面には切られた木の枝といくばくかの葉っぱにより抽象絵画(きっと歴史上の何かの殺戮をテーマにしたものだ)が描かれていた。
死んでいったフィボナッチ数個の梔子たちはどこへ行ってしまったのだろう。「死人に口なし」だから、彼ら彼女らはもう何も、あの芳醇な香りすらも、発することができないだろう。
あるいは、本当はこの言葉は「死人に梔子」と書いて、死者に梔子の花を手向ける、という意味なのかもしれない。だからフィボナッチ数個の梔子は、フィボナッチ数個の死を、今この世だかあの世だかのどこかで悼んでいるとも考えられる。
2ヶ月ほど前に亡くなった私の母のもとにも、梔子の花は届いているだろうか。
死人に口はないが、梔子はある、と思えると、私の心は、ほんの少しだけ軽くなった。
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