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別の方法で

「面白いものがあるんだ」

アトリエでのミーティングが終わったタイミングで、調香師Jean-Michel Duriezはそう口にした。

そういう時はだいたい香りに関するものだ。香料メーカーが開発した新しい香料や、珍しいスパイスなどであることが多い。彼のいう「面白い」は必ず面白いものだった。

彼はテーブルの上に無造作に置かれた小さな箱に手を伸ばした。中に入っていたのは香水のサンプルだった。スプレーのついていない、蓋が栓になっている2mlのタイプのものだった。

Simon Guettaの「Autrement」。この香水はおろか、ブランドすら知らなかった。それもそのはず、とっくになくなったブランドだった。ちなみに、「Autrement」とは「別の、違ったやり方で」といった意味の副詞である。

「この香水は、自分が調香したはじめてのきちんとした香水なんだ。確か1986年だったと思う。掃除をしていたらこのサンプルがたくさん入った箱を見つけたんだよ」

シプレを中心としたフローラルノートに、レザーのアニマリックがコントラストを作る。80年代の、フレグランスの“よき時代”が漂っている。

転職をした後に、Olivier Pescheux(Paco Rabanneの「1 Million」やDiptiqueで数多くの作品を手がけた調香師。惜しまれながら昨年亡くなった)とJean Jacques(Givenchyの「Gentleman Only」を手がけた。現Caron調香師)と親交を深めることになるが、ふたりともこの「Autrement」を知っていたようだ。よって、Jean-Michelはふたりから、しばらくの間「Autrementの人」という評価を受け続けたらしい。


「この香りを嗅いで、今の自分と比べると、何か変わったところはあると思う?今の方がずっと成長してる、とか」

そんな不躾な質問を投げかけてみた。

「これはこれでよくできていると思う。技術的な欠点は特に見つからないし、ここから今の自分が飛躍的によくなっているか、と問われると、そんなことはないと思う。もちろん、今はこんな香水は作らないけどね。時代に合っていないから。アーティストならば生涯同じことをし続けてもいいかもしれないけど、調香師はあくまでも職人だから、クライアントや時代に合わせていくことがとても重要だと思う」


私はこの香水を試して、24、5歳のJean-Michelに、既に今の彼の“面影”を見ることができる。それは彼が作り出すアコードの独特な“清潔感”だ。その清潔感の中に、20%ほどの“汚い”部分がある、あの抗い難い絶妙なものである。

そのことを素直に伝えると、彼は笑って、「その“汚い部分がある清潔な香り”というのは、まさに自分が追い求めているものだからね」といった。


何度もこの香りを試している中で、私がなぜJean-Michel Duriezを調香師として信頼しているかがわかったような気がする。その理由はふたつあって、ひとつは先に言及したあの「汚い部分のある清潔感」なのだが、もうひとつは、80年代を調香師として駆け抜けた、その経験そのものだ。90年代以降の、香水がより大衆的に、よりシンプルになっていくその前の、キャラクターがあって、複雑で、そしてエレガントなあの時代を、ひとりの“職人”として過ごしたことは、彼の香り作りに大きな影響を与えたはずだ。それは、残念ながら若い調香師がどう足掻いても持つことができない素晴らしい宝物であると同時に、逆にモダンなものを作る際の“足枷”にもなりうる、「諸刃の剣」なのだが。


きっとçanomaは、私がモダンさを加えていきながら、Jean-Michelが“古き良き時代”を香らせることで、新しくも懐かしいものが作れているのだと思う。これからもそんな香り作りを続けていきたいし、私はそれが、本当の意味での「新しいもの」に繋がっていくと信じている。

そうやっていつも、autrement、別の方法でやっているのだ。


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