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遠いいかめしの思い出

久しぶりに夜遅い時間に記事を書いている。今夜文章をしたためたい気分になったのは、ついさっき食べた阿部商店の「いかめし」のせいだ。


出張もポップアップも入っていないオフの日曜日だった。ここ最近の睡眠不足を解消するべく、午前中はとにかくしっかり寝ることにした。お昼前にノソノソと起き出し、昼過ぎに来る久しぶりの友人を迎え入れる準備をした。一年ぶりに会う彼との会話は尽きることがなかったものの、夕方5時ごろには次の予定に向かわなければならなかった。そちらはそちらでまた違う久々の友人との約束で、私は結果的にいわゆる“女子会”の中に放り込まれる形となった。

こんな感じの普通の休日だったのだが、その“女子会”に向かうべく新宿駅で降りた時に、ある文字が目に入った。

「北海道物産展」

京王百貨店の7階催事場で開催中とのことだった。

「いかめし、あるかな…?」

待ち合わせまでは時間があったこともあり、催事場まで行くことにした。


そもそも、「いかめし」とはどこまで一般的な食べ物なのだろうか?広辞苑第七版の「いかめ(厳し)」と「いかめしい(厳しい)」の間には残念ながらいらっしゃらなかったが、Wikipediaにはきちんと項目があった。いかめしのことを知らない人もいるかもしれないので、以下にWikipediaでの説明を引用しておく。

烏賊飯(いかめし)は、イカの中に米を入れて炊き上げた日本の料理。北海道渡島地方の郷土料理。

Wikipedia「烏賊飯」

その見てくれについては下記のリンクを参考にしていただきたい。


数日前、ある人と話していてそのいかめしが話題に上った。その瞬間、忘れていた遠い昔の記憶が一気に蘇ってきた。


母は昔からいかめしが大好きだった。地元の百貨店で駅弁フェアか北海道物産展があると必ずといっていいほど買ってくるものはいかめしだった。それ以外のものを買ってきた記憶は私にはない。

教育に関する事柄を除いて、生活に必要でないものが極力排除されていた我が家における数少ない贅沢だった。あともうひとつ、同じ百貨店で売っていた「洋梨のタルト」もそのカテゴリーに入るが、こちらは地下の食品売り場でいつでも買えるものだった。対していかめしは、催事の際にしか購入できないという点も、その特別感を押し上げていたように思う。


戸棚の奥に仕舞われていた「いかめし」の記憶がひょんなことから呼び覚まされたことで、私は久しく口にしていないそれを、改めて味わいたいと強く思った。一方で、食べたいからといってそれを「通販でお取り寄せ」などというのはきっと間違っている、それは催事で購入されなければならない、とも感じていた。

そんな都合よくいかめしが買える催事なんてないだろう…と思っていたところ、なんと通りがかりの京王百貨店で北海道物産展が。もしかしたらいかめしもあるかもしれない、と思い、7階催事場にエレベーターで向かった。

日曜夕方の北海道物産展は想像通り多くの人で賑わっていた。私はそんな人混みと“甘と辛の誘惑”をかき分けながら、その奥にあるいかめし売り場をなんとか見つけることができた。

一箱購入。その箱は記憶のそれよりも幾分小さく感じた。それだけ私が大きくなったのかもしれない。その箱を携えて、例の“女子会”に向かった。女子たちの話を聞く私の横で、いかめしはその沈黙を固く守っていた。


賞味期限が本日中とのことだったので、夜10時過ぎに家に着いてから食べることにした。今日だけはダイエットはお休み。いかめしと違い、この「今日だけは」には賞味期限はない。なんとも便利。

箱を開ける時、そういえば2匹入りと3匹入りがあり、それがどちらであるのかは箱を開けるまでわからないことを思い出した。幼い日の私はそのどちらかにより強い喜びを覚えていたような気がするが、どっちだったっけ?大きい2匹だったか、数の多い3匹だったか、思い出せぬまま開封した。

大きな2匹がそこにはいた。

口に入れる前に、私はガッカリするだろう、と思っていたし、もっといえばガッカリすることを“望んで”さえいた。きっとあの頃感じたほどは美味しくは感じないだろう、そしてそうやって思い出は綺麗に手付かずのまま保存されていくのだ…と私は考えていた。

だから思いがけない美味しさが口の中に広がった時、私は驚きを隠せなかった。記憶の中のいかめしはもう少しパサつきがあり、イカの胴体がリング状に裂けやすかった。それが口の中にいるイカはしっとりしているし、タレもより上品な味わいになっているように感じられた。

私は、まんまと裏切られてしまった。

ただし、裏切られなかった部分もある。いかめしは私にとって、昔と同様に特別であり続けることになった。味が時代と共に変化したことによって、色褪せかけていた私の記憶が瑞々しく蘇ったのだ。


私はこれからもいかめしを買い続けるだろう。そしてきっと、その度に、昨年旅だった母と共にいかめしを食べた、あの遠い昔の日を、色鮮やかに思い返すことになるのだ。

また次に思い出の母と出会えるのはいつになるのだろう。きっと、そう遠くはないはず。


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