見出し画像

香水の選び方

ジャスミンの季節になった。パリで見かけるのは、写真のスタージャスミン、日本語ではトウキョウチクトウと呼ばれる種類のものだ。
※本文とはなんの関係もありません。

自己紹介シリーズが終わったので、これからは香水のことを中心に記事を書いていこうと思う。

今日は、私なりの香水の選び方について。香水に携わっているとよく聞かれる質問の一つだ。

その前に、私のスタンスを明確にしておきたい。
香りとの関わり方は主に3つある。作り手として関わる、売り手として関わる、そして、使い手として関わる、だ(昨今はブログ等で情報発信をする伝え手も増えてきた印象だが、彼ら彼女らは売り手と使い手の中間に位置していると考えている)。私は作り手であり、この記事を読んでいる方の多くが使い手、つまり消費者だと思われる。

私は、好みとは別の次元の話として、香水にはそもそも良いものと悪いものが存在していると考えている。このように考えているのは、私が香りの作り手であるからだと思う。私は良い香水が作りたいと常々考えているが、そのためには、私の中に良い香りの判断基準が必要である。想像するに、多くの作り手が、もちろん作り手により千差万別だろうが、この判断基準を持っていると思われる。

一方で、使い手がどのように香水を選ぶかは、当然使い手の自由である。作り手が悪い香水だと思うものを使い手が好んで使うことに対し、当たり前だが作り手は何も言うべきではない。なので、本来であれば、「どうやって香水を選んだらいいか」と使い手に聞かれれば「お好きなものを」と答えるべきだし、私は必ず一旦はそのように答えている。

そして、香水の選び方を使い手にレクチャーするプロは売り手である。よって、私がこれからここに書く「香水の選び方」は、売り手のそれと違い、かなり素人意見であることを予めご理解いただきたい。

その上で、「こんな選び方もあるよ」という一つの方法として受け取ってもらえればと思う。

香水を選ぶことは難しい。香水売り場に並んでいるボトル達は、香りについてほぼ何も語らない。香りを知るためには、1つ1つ嗅ぐ必要がある。
しかしながら、人間が一度に嗅げる香りの数は多くない。いくつかの香水を試すと、もう鼻がバカになって香りを感じられなくなってしまう。
なので、大前提として、香りを選ぶときは時間をかける事が重要だ。香水に馴染みがない人なら尚更、何度も売り場に足を運び、自分の好みをある程度把握する作業が欠かせない。

香水売り場に足繁く通っていると、いくつか気になる香りが出てくるはずだ。しかしながら、そこから先が難しい。それらを売り場で肌に乗せ、ムエット(香水を試す紙)を持ち帰り、家で嗅ぎ比べ、よしこれを買うぞ!と決めた30分後に、やっぱり違うのが良いかな…と迷いが生じ、なかなか購買まで辿りつかない…そんな経験をした人は意外に多いのではないだろうか。

そんな時に、私は、“記憶に残る香り”を買うようにしている。

香りを試した何日が後、道を歩いている時に、選んだ香りを頭の中で再現しようと試みて欲しい。その時に、全く思い出せない香り、ぼんやりと輪郭だけは出てくる香り、くっきり明確に描ける香りに分かれるはずだ。私はこの、頭の中での再現性の高い、香りとしてしっかり記憶に残っているものを買うようにしている。そこに明確な理由はないが、過去の経験上、そう言った香水が私がその時に欲している香りである事が多い。そして、私の場合は、頭の中で再構築できる香りは、だいたいが長く使うことになる香りだ。

香りと記憶はしばしばセットになって語られる。また、香りと記憶が強く結びついていることは脳科学的に証明されてらしい。しかし、私は他の感覚以上に香りと記憶が結びついていることを実感したことは正直ない。なんなら「懐メロ」の方が過去の記憶を掘り起こすことにかけては優れているのではないかと思ったりもする。
一方で、昔使っていた香水や、懐かしい香りは、私にその香りを過去嗅いでいたという事実を思い出させる。それが何の香りで、どこで嗅いだのかは分からないが、間違いなく人生のどこかで私の鼻腔をくすぐった香りであることだけは分かる、と言ったように、他の記憶との結びつきではなく、その香りの記憶単体のものとして強く思い出されるということだ。
私のこの香水の選び方は、こういった私の香りと記憶の結びつきから派生しているのかもしれない。

他の人の脳内で香りと記憶がどのように結び付けられているかはよく分からない。もしかしたら私とだいぶ違っているのかもしれない。なので、私の香水の選び方は皆さんの参考には全くならないかもしれないが、こんな香水の選び方があるんだぁ、程度に思っていただければこれ幸い。

最後に今後繰り返すこととなると思うが、私の香水というプロダクトについての考え方について少し書いておく。
あなたにとってのいい香水はあなたにしか分からない。ブランドで選ぶ、ボトルのデザインで選ぶ、コンセプトやフィロソフィーで選ぶ…どのように選ぶのも素敵だ。みんなちがって、みんないい。
私にとっての良い香水の定義は、良い香りでかつきちんと身に纏える、というとてもシンプルなものだ。それゆえ、今後、ブランドや、ボトルデザイン、コンセプト等にはあまり言及しないと思う。
また、私は調香師ではない。あくまでも調香師に調香を依頼することでしか香水を作れない。便宜的に“香水クリエイター”という肩書きを使っているが、なんなら“フーテンの香水好き”くらいがちょうどいいのかもしれない。フーテンの香水好きには、調香のスキルもなければ、香料に関する知識も乏しい。
それでは私は何を以てして“香水クリエイター”あるいは“フーテンの香水好き”足り得ているか、というと、香水に対するセンスだ。硬い言葉が好きならば、哲学、と言ってもいい。私は香水の香りに対し、私のセンス、あるいは哲学を持ってして良し悪しを判断している。
よって、私が記事の中で、「良い香水」と言った場合、それは基本的に私の主観的な判断に基づいてたものだ、と考えていただきたい。一方で、その主観的判断は、コンセプト等によってもたらされたものではなく、その香水がもつ香りに対し向けられたものであることも、あわせて認識しておいていただけると、今後の私の記事が理解しやすくなるかもしれない。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。書いて欲しいテーマ等あれば、ぜひコメントに記載してください。

次回も乞うご期待!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?