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まずはピザ。話はそれから。

飲み物を配るCAさんの声で目が覚めた。私はその時パリからミラノに向かう飛行機の中だった。


前日は家に着いたのが深夜0時を過ぎていた。あれこれ済ませて1時に寝て、早朝4時に起床。5時に家を出て空港に向かった。

保安検査を済ませてから搭乗までの間、少し仕事をした。どこにいてもとりあえず仕事ができるというのは便利なことだと思いながら、あくびとともにいくつかのメールを返した。

とにかく眠かったので、搭乗後は飛行機が動き出す前に寝てしまっていた。歳とともに私のいつでもどこでも寝れる能力が強化されているように思うのだが気のせいだろうか。


男性CAさんふたりがワゴンの両サイドにいた。ひとりは若く、もうひとりは結構歳のいった方だった。後者が笑顔で飲み物とマドレーヌを配っていた。そのマドレーヌのメーカー「Saint Michel」が、彼の出身地のブランドであることをしきりに周りに説いていた。

彼にコーヒーを頼んだ。

「砂糖はいる?」

いらない、と答えた。

彼はマドレーヌを渡しながら、

「それじゃこれをお砂糖代わりに。1つで足りるかい?2つでもいいよ」

1つでいい、ありがとう。


マドレーヌを片手にコーヒーを飲んでいると、窓の外から急に強い光が飛び込んできた。飛行機のちょっとした向きの関係で、太陽光が直接入ってくるようになったようだ。

窓から下を眺めると、尾根に雪を残した山々が広がっていた。それらの山が作る谷間の小さなスペースには、小さな小さな村が、ぽつり、ぽつりと見えた。

スイス上空、イタリア国境付近を飛んでいるようだった。眼下に広がる山々を眺めながら、どうやったらその窪みのひとつに人々が到達することができるのかを想像してみたがうまくいかなかった。それと同時に、いつかその地に足を踏み入れてみたいという強い願望を覚えた。


そこでは人々はどのように生活しているのだろう。私たちと同じようなものを食べているのだろうか。私たちと同様に、Instagramなんかを使って、情報を受信したり発信したりしているのだろうか。

そこはどんな香りで満たされているのだろう。


電車であれ飛行機であれバスであれ、窓の外に広がる景色の中に私も入りこみたいといつも思う。猛スピードで駆け抜ける景色を目で追いかけながら、私はそれがたいていにおいて叶わぬ夢であることを知っている。


尾根の雪は消え、代わりに雲が谷間を満たす。私はその雲を手で掬って、その中に顔をうずめたくなる。

太陽の光によってそれが美しく見えるのか、それとも山々が自ら美しさを所有しているのか、私にはよくわからなくなった。ただ美しいことしか理解できなかった。


気がつくと山々は姿を消し、平地の中にいくつもの家が見えた。ミラノはもうすぐのようだ。


2時間弱の乗り換えの後にナポリに飛ぶ。到着は正午。

ナポリ…あと数時間後に到着するこの都市は、私の人生にとってどんな場所になるのだろう。場合によっては“窓の外の羨望”に終わるはずだったかもしれないこの地で時間を過ごすのは、もしかしたら最初で最後かもしれない。それともこれをひとつの契機として以降何度も足を踏み入れるようになるのだろうか。どうなのだろう。

ここ1ヶ月ほど、ほぼ休みなく仕事をしてしまっていた。充実した日々ではあったが、この3日間くらいは少し仕事のことを忘れるのも悪くはないだろう。


流れゆく窓の外の景色に、私は久しぶりに溶け込むことができる。その景色の空気を、重さを、そして匂いを、なるだけたくさん持ち帰ろうと思う。


でも…まずはピザかな。話はそれからだ。


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