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地方自治体の会計制度 ~借金をすれば黒字になる単式簿記・支払いを遅らせると黒字になる現金主義~

はじめに

民間企業では会計制度として、「複式簿記」「発生主義」が採用されていますが、日本の地方自治体は、「単式簿記」「現金主義」が採用されています。

京都市が財政破綻の危機に陥るまでに、「単式簿記」「現金主義」を使って、市民を誤魔化してきた手法を見ながら、地方自治体の会計制度の特徴を知って頂きたいと思います。


「単式簿記」の黒字は、世間の黒字とは異なる

複式簿記は「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」の5つに勘定科目が分類されますが、単式簿記は「収入」「支出」の2つしかありません。そのため、「負債」つまり借入金をして入ってきたお金も収入になりますし、「資産」つまり貯金を取り崩して入ってきたお金も収入になります。

令和2年度決算時資料(京都市行財政局作成)

この資料は、京都市が財政破綻の危険性が議論され始めてから当局が表に出した資料です。「特別の財源対策後の実質収支」というのが市民しんぶん等で市民に公開していた収支(黒字)で、「通常の収支」というのが、実態の収支(赤字)です。

前述のように、借入金も基金の取崩しも「収入」としてカウントされるので、財政当局自体が禁じ手と認めている「発行すべきでない市債」や「取り崩してはいけない基金」を使うと、実態は100億円を超える赤字が続いているのに、公表される決算は常に黒字になります。やっかいなのは、世間の考える黒字とは全く異なるのですが、単式簿記上は確かに黒字だということです。

議会では、一定数の議員が以前から財政危機を把握し指摘していましたが、市民にとっては突然の財政危機だったのはこういった背景があります。


支払いを遅らすと黒字になる「現金主義」

発生主義というのは、代金を支払っているかに関係なく、手元に物が届いたり、サービスを受けたら、その時点で経費を計上する会計処理です。一方、現金主義というのは、手元に物が届いたか、サービスを受けたかではなく、代金を支払った時点で「支出」(経費計上)にする会計処理です。

令和元年度予算時資料(京都市行財政局作成)

これは、令和元年度の予算を編成していくにあたって、前年の秋に試算をしたら、369億円の収支不足(世間一般の感覚の赤字)があったものを、様々な処理(収支不足の改善)をして128億円の収支不足(世間一般の感覚の赤字)まで減らしたという工程です。

「収支不足額の改善 241億円」のうち、「財政構造改革の取組 72億円」は、真っ当な改革と呼べるものです。

「臨時交付金の予算計上 13億円」はたまたま国から貰えることになった補助金。「財政調整基金の取崩しの予算計上 19億円」は、貯金の取崩しで先ほど単式簿記で説明したものと同様です。

残りの「特別会計繰出金の減、投資的経費の抑制 70億円」と「その他支出の精査・財源の確保等 67億円」の大半は、単に、今期支払う予定だったものを、来期の支払いにまわしただけです。

そう、現金主義だから、支払いを来期にまわすだけで、なんと赤字額が大幅に減るというわけです。

このように、さも241億円も改革で財源を生み出したように見せかけて、実際の改革額は72億円にしか過ぎないのです。来期にまわした支払いにより、来期の予算がより苦しくなるのは言うまでもありません。


公会計制度改革の現状

地方自治体の公会計制度にも、企業会計同様の「複式簿記」「発生主義」の会計制度を取り入れるべきという声は以前からありました。

東京都や大阪府、新潟県、町田市などが各自治体独自で、「複式簿記」「発生主義」の新公会計制度を導入したのを皮切りに、先進的な自治体での導入が続きました。

そして、平成27年に総務省が概ね3年以内に「統一的な基準による地方公会計」の導入を全国の自治体に要請し、「複式簿記」「発生主義」の新公会計制度を導入が始まりました。

しかし、実は全然問題は解決していません。例えば、京都市の場合、従前の手法で従前と同じ決算をつくり、その後に、形式だけ「複式簿記」「発生主義」に合わせた書類を追加でつくるというやり方をしています。しかも、議会で決算審議が終わって、半年~1年ほどしてからひっそりと公開されますので、事実上活用されていません。

「複式簿記」「発生主義」の新公会計制度のメリットは、主に下記の3つとされています。

  • 現金収支以外の資産や負債など、より正確な財務情報を提供できる

  • 複式簿記によって取引ごとの検証が可能になる

  • 会計別・事業別での財務書類を作成し、財政マネジメントや公共施設マネジメントに活用 できる

しかし、総務省に言われたから、怒られないためだけに作った形式上の書類作成では、1つめのメリットが少し享受できる程度で、手間だけ増えて、ほとんど役に立ちません。(おそらく、全国的にも同様の自治体が多いと思われます。)

世界を見渡せば、ほとんどの先進国の公的セクターは「複式簿記」「発生主義」を活用した効率的な財政運営を行っています。総務省も地方自治体も、形式だけで役に立たない現状を早く脱却して、本当の意味での新公会計制度への移行をしていかなければなりません。


まとめ

  • 借入金や貯金の取崩しが「収入」になるため、実態は「大赤字」でも、公式の決算発表が「黒字」となる。

  • 現金を支払った時に初めて「支出」となるため、今期の支払いを遅らせて来期にまわしただけで「黒字」(「赤字」が減る)となる

  • 総務省がようやく「複式簿記」「発生主義」を活用した新公会計制度を使うように動き始めたが、現場の自治体は形式だけ合わせていて、実態が伴っていない。

  • 世界のスタンダートに合わせて、効率的な財政運営を早く実現しないといけない。

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