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手に入れて手放して、また手に入れて


気になっていた喫茶店に行った。
雑誌で一目惚れをしてから何ヶ月が経ったのだろう、
定休日や営業時間などのすれ違いを経て今日、
ようやく足を踏み入れることが出来た。
木造の店内、ステンドグラス、深入りのコーヒー、たっぷり詰まったたまごサンド、仄かなBGMとご老人の話し声。
念願補正を差し引いたとしたってどれも魅力的だった。

モーニングを終えて再び電車に揺られる。
車窓から、遊具が隣接されているマクドナルドが見えた。
最近はめっきりと減って絶滅危惧種になりつつあるマクドナルドの遊具。かつてはボールがたくさん入ったあの遊具や、ベンチに腰かけているドナルドと無心で戯れ、ジャンキーな匂いを家に持ち帰ったものだ。
思い出が蘇って心が踊った。
容赦なく進んでいく電車には「もう戻れないよ」と言われているようだった。

人生は何かを手に入れると同時に、何か手放している。
一度に手にできる量は決まっているのだ。
喫茶店で美味しいコーヒーを飲むことが楽しくなったときにはマクドナルドの遊具で遊ぶことはなくなる。
そんな風に僕はこれからもずっと何かを懐かしみながら、別の何かに手を伸ばし続けるのだろう。
人が乗り降りするけど一貫して座ることができない電車の中でふと、そんなことを思った。



暫くして、ようやく席に座ることが出来た。
それでこうして携帯で日記を書くことが出来た訳だけれど、引き換えに車窓からマクドナルドの遊具を見つけることはもう無くなっていた。


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