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読書「サーバント・リーダー」

僕の仕事は、エンジニア兼マネージャーです。1日の半分は、リードエンジニアとしてプロジェクトに参加しています。もう半分は、マネジメントに務めています。受け持つ組織の利益や、チームメンバーの成長に対して責任があります。

僕は、前者の任務については自信があるのですが、後者の任務については、まだ十分に果たしてるとは言えません。上司の真似も含めて独学でやりくりしていましたが、やはり壁を感じます。導く立場にいる者として僕は、もっと多くを学ぶ必要がありました。

リーダーシップとは何で、リーダーとは何者なのか。この記事は、リーダーシップを学ぶために読んだ本についての記録です。

マネジメントとリーダーシップ

職場では、かなりの頻度で出てくる言葉です。僕も毎日、考えます。その違いについて、わかりやすい表現がありました。

マネジメントは、人間に対してすることじゃない。目録や小切手手帳や資産を管理したり、自分自身を管理することはある。でも人は管理しない。人のことは先導(リード)するんです。

人は先導(リード)する。
人以外のものは管理(マネジメント)する。

仕事でなにか考えるべき事項があったとき、予めどちらの話なのかをはっきりさせておくと頭がクリアになります。このシンプルな住み分けは、翌日からすぐに役に立ちました。

リーダーシップは技能

リーダーシップ:共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能。

「リーダーシップ」とは、学ぶ意志と、実践する環境があれば身に付けられる技能、単なるスキル。とすると「リーダー」とは、リーダーシップスキルを用いてメンバーを先導する影響力を持つ人のことになります。立場の話で言うと、その責任がある人ですね。

権力と権威

権力:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力。
権威:個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能。

権力だけの上司には、明らかに付いていきたくありませんね。一方、権威ある上司ならば、どうでしょう。部下の立場で考えると、すでに自発的に従っている状態なので、ストレスはあまりなさそうです。

ちなみに、身近な権威ある存在としては、両親が挙げられるようです。確かに、両親は自分に対して影響力のある人物です。彼らが何も言わなくても定期的に電話をして調子を聞くし、必要ならサポートもする。リーダーシップの話に照合すると、明らかに権威を感じます。

権威のあるリーダーとは

正直で信頼できる
いいお手本
愛情深い
献身的
話をよく聞く
人に責任を持たせる
敬意を持って人に接する
人を励ます
肯定的で熱心な態度
人の価値を認める

これらの要素が「権威」の正体、源泉。確かに、これらの要素を持つ人のことは、なんとなく好感を持てる人物だと想像できます。逆にあまり持たない人物の場合、やはり避けたい気持ちになりますね。このような視点で身近な人を思い浮かべると、参考にできることは多そうです。

また、両親はやはり、具体的な権威があると気づかされました。

パラダイム

「パラダイム」とは、自分ルールのこと。それはいつも正しいと思い込みがちですが、あまり固執して変化を受け入れないでいると、将来的に失敗するリスクがあるようです。

父親に虐待を受けている女の子について考えてみてください。大人の男は信用できないというパラダイムを持てば、その子はなるべく父親に近寄らなくなるから、子供のときはそれも役立つでしょう。しかし、成長してもそのパラダイムを持ち続ければ、男性とのつきあいに深刻な支障をきたすかもしれません。

仕事で日常的に利用していたサービスやフレームワークがあったとして、若い後輩がより良さそうな上位互換を持ち出しました。それに気づいた瞬間から、今までのお作法が突然、恥ずかしいほど古くさく感じることがあると思います。これが、パラダイムシフトですね。ここで古いやり方に固執していると何が起こるか、想像に難くありません。

この本には多くの比喩表現が出てきますが、噛み砕いてわかりやすいものが多く、馴染みやすいです。

逆ピラミッド型の新しいパラダイム

ピラミッド型の組織。これはとてもよくある構造ですね。会社というピラミッドの中では一番上に代表取締役。その下にはマネージャー。その下には中間管理職がいて、その下には一般従業員がいる、といった調子です。本書が独特だったのは、さらにその下に顧客を位置付けたことでした(とても重要なファクターなので覚えておいてください)。

会社組織のピラミッドでは基本的に、皆が上のために働いていますし、より上階に昇ろうとしています。目的は様々ですがキャリアアップは魅力的ですよね。しかし、仕事とは本来、上司のためでなく、顧客や社会のためにするものです(半沢直樹も言ってました)。ここで「より上階のために働く」という原理を前提とするならば、ピラミッドを上下逆さまにすれば、なんと、社長を含めた全員が顧客のために働くという構造になります。

本書でとても勉強になった部分のひとつです。このパラダイムにはとても驚きました。上司は、部下のために働くことになるのですから。実際、教育などそれに当たりそうな任務もありますが、全体図を意識したことはありませんでした。

欲求ではなくニーズに応える

「欲求」とは、心身に及ぼす影響をまるで考えない願い、希望。「ニーズ」とは、人間として良い状態であるために、心身が正当に求めるもの。

例えば、部下に「職場に良い椅子が欲しい」と言われた場合、単純に「良い椅子で気持ちよく座りたい」という欲求に言い換えることができます。ただ、本質(なぜその欲求が現れたか)を考えてみると、「腰のダメージが蓄積して生産性が落ちているから、より良い椅子にすれば改善するのでは」というニーズが隠れているかもしれません。これに対する上司のリアクションとしては、マッサージクッションを与えてみるという解決方法で、腰の悪くなった部下の生産性を改善できる可能性があります。ついでに部下の職場満足度も上がるでしょう。

ここで見落としてはいけないファクターは、椅子は元々、それなりに良い椅子だった、ということです。環境を考慮することを忘れてはいけないようです。なんなら、座り方の指摘だけで済んだかもしれませんね。

リーダーの難しいところは、ニーズは人それぞれ違うため、本質を見抜く洞察力を求められ、柔軟でなければいけないということです。また、やり方に正解はない、ということもわかります。

難易度が上がってきました...。

奉仕と犠牲

影響力や権威は、「奉仕」と「犠牲」からしか生まれない。奉仕と犠牲は、「愛」からしか生まれない。愛は常に、「意志」の上に成立している。そして意思は、「意図+行動」であると説いています。

兎にも角にもまずは自己を犠牲にして、奉仕する人(サーバント!)にならないといけない、ということのようです。

自分の欲求や必要を脇にやり、他社のために最高の利益を求めること

意図+行動とはつまり、言ってることとやってることを一致させよ、ということですね。ここが一致していない人は、そもそもリーダーシップのステージに立てない、ということのようです。当たり前のようにも思いますが、改めて自分を戒める内容でした。

行為としての愛

リーダーシップで出てくる「愛」とは、好き好き!な感情のことではなく、行為、善き振る舞いのことであると説いています。さらに、振る舞いはコントロールできる、とも。コントロールされた善き振る舞いは愛する行為であり、それは犠牲と奉仕でのみ実行可能である、ということのようです。

同じ言葉がぐるぐるしますね。結局のところ、いかに犠牲と奉仕ができるかが、リーダーとしての素質と言えるかもしれません。

愛とリーダーシップ

愛の行為を構成する要素がわかりやすく分解されていました。

忍耐:自制すること
優しさ:注意を払い、評価し、励ますこと
謙虚:信頼でき、虚偽や高慢さがないこと
敬意:他者を重要な人物として扱うこと
無私:他者の必要に応えること
許し:悪いことをされたときに怒りを捨てること
正直:欺かないこと
献身:選択を貫くこと

これは、権威あるリーダーの要素と非常によく似ています。つまり、行為としての愛は、ほぼイコールでリーダーシップのようです。これらを備えた上司を想像すると、本当によくできた神上司が出来上がるでしょう。完璧すぎるかもしれません。

本書では言及されていませんが、これらすべてを完備しろ、ということではないと思います。苦手だったり、しばしば間違える要素もあるでしょう。すべてが必要だが、すべてが揃わないとリードできないわけではない。大切なのは、理解し、意識し、扱うことかもしれません。

成長させるということ

日当たりの良い土地を見つけて、土を掘り起こして植える準備をする。種を撒いて、水をやり、養分をやり、害虫を駆除し、定期的に雑草を抜く。
期待できることは、植物が育って、実がなる。

人は、誰かを直接的に成長させることはできません。決して人を変えることはできません。一方で、成長に適した条件を整え、成長を促したり仕向けたりすることはできるようです。

部下を成長させるという任務は、上司にとっては最もありふれているのに、最も難しいことのひとつですね。成長する環境をきちんと整えてあげることが大切なようです。それには愛の行為が必要そうですね。

人の行為を変える

人を変えることはできませんが、人の行為なら変えられる、と説いています。それは、法律を作って規制することのようです。法律と言っても大それたものではなく、例えば「遅刻をしない」「与えられたデスクに座ってその日のスケジュール通りにタスクを進める」「その終わりには業務日報をつける」のように、職場の日常にはたくさんのルールがあります。これらを意図的に作り、うまく作用させよ、ということです。

ルールは加減が難しいですね。間違うと大きなストレスになり、一度作ったルールはなかなか撤回できず、従わせるためには権力が必要になる。悪循環の始まりです。

習慣にするということ

第一段階、無意識で未熟。知らない、意識していない、興味がない。
第二段階、意識していて未熟。知っていても技能がない。
第三段階、意識していて熟練。コツを飲み込んでくる。
第四段階、無意識で熟練。自然体。本質になっている。

多くの学びがありましたが、これらは実践していかないとなかなか身に付けることは難しそうです。本書ではこの問題について、繰り返して習慣づけるよう促しています。世の中に優秀なリーダーはたくさんいますが、それぞれの個性と、違ったやり方を持っている。つまりリーダーシップとはやり方ではなく、リードする人の本質、人格のようです。これまで学んできた要素を意識しながら人格を再構築していく、ということですね。リーダーシップが習慣になれば、良いリーダーになれそうです。

終わりに

僕は恥ずかしながら、本をあまり読みません。そんな僕でも、ストーリーに引き込まれ楽しみながら、多くを知れたような気がします。現場で実践し、良きリーダーに近づけるよう努力を続けるつもりです。なぜなら僕は、部下の人生に影響する可能性が高い、リーダーですから。

出典

英題:THE SERVANT
和題:サーバント・リーダー
著者:James C. Hunter
訳者:髙山祥子
発行:海と月社
定価:1600円(税別)
初版:2012年5月28日

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