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ポメラート展に行ってきた。

金曜日の仕事のあと、原宿〜表参道の界隈まで足を運んだ。そこで立ち寄ったのは、表参道ヒルズで開催中の”ポメラート展”。ジュエラーのブティックがおおく入っている表参道ヒルズ。この地下3階へ案内された。

このイタリアのジュエリーブランド、ポメラートについては、恥ずかしながらほとんど知らなかった。どこかで目にしたか耳にしたか、仕事で鑑別したアイテムのなかにもあったような気がする、という程度の認識しかなかった。

展示によれば、1967年にミラノで創業したジュエリーブランドとある。大手のブランドとしては、歴史が約半世紀というのはかなり新しい部類だ。

手渡されたカードには鎖をモチーフにしたネックレス。眩しく光るデザインがかっこいい。下は、同じデザインのパンフレット。『一日一画』の題材にさせてもらった。

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展示会場は、チェーンをモチーフにしたセパレータで区切られた正方形の空間。それぞれでブランドの歴史や各時代を代表する作品の特徴、高度な金細工技術の紹介などが展開されている。

最初のコーナーでは、ミラノから来たとおもわれる女性の職人さんが加工の実演をしていた。「職人さんには話しかけないでください」と言われ、前面に撮影禁止のマーク。ほぼ貸切状態だったのをいいことに作業をしっかり見学させてもらった。

ここで実演されていたのは、ポメラートが20年前に発表した”ヌード(Nudo)”というデザインのリング。同社の代名詞ともいえる作品だ。

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この写真はパンフレットより。”ヌード”のリング。独特にカットされた色石をあしらったものだけど、通常のジュエリーのような爪留めではなく、爪がまったく見えないセッティング。おもしろい存在感がある。

爪留めしないセッティングでは、ベゼルセットというのがある。日本語では、”覆輪どめ”とも呼ばれる。しかしこれは、通常金属のふちが見えるのに、ポメラートのヌードシリーズにはそのふちも見えない。最初に見たときは、どうなっているのか不思議だった。

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これは2012年初版の『The Guide to Gemstone Settings Styles & Techniques』(アナスタシア・ヤング著、2018年改訂)。向学(好学)のために買った書籍。かなり細かく網羅されているこの本にも、ポメラートの”ヌード”のセッティングに相当するものは載っていない。

ここでくわしく書いてしまうのはちょっと気が引けるけど、実際の作業を見学してわかったのは、4方向からピンで石を留めていること。そのピンの跡がわからないように、金属を磨いているようだ。石のほうにも、そのピンのための穴を開けているという。なるほど。

ここでは、使われている石の種類にも触れられている。なかには耳慣れない商業名もあったりして仕事柄とても気になった。独特なカッティングスタイルも、「鑑別レポートではどう呼ぶか・・・Faceted Cabochon(※)かな」などと考えながら観ていた(←職業病)。

このあとの展示で、このヌードシリーズの石のカットについて説明があった。じつはランダムなように見えてそうではなく、計算されたカット。なんとファセット(平坦な研磨面)が57個あるという。

ん?57?それは、ダイヤモンドで一般的なブリリアント・カットのファセット数じゃないか。ここでポメラートの作品が、がぜんおもしろく見えてきた

高い屈折率や分散といったダイヤモンドの特性。これらを最大限に活かすために開発されたブリリアント・カット。あえてファセット数をそのブリリアント・カットに合わせて、ダイヤモンドではないカラーストーンに適用している。それも、すべてが”半貴石”とよばれている比較的廉価な石だ。

これはアンチテーゼか、皮肉か、その両方か

金属加工も伝統的なデザインをたくみに応用しているように見えてくる。シンプルに見える形状にも、ひとひねりもふたひねりもくわえた工夫がある。ことなる色の金属をあわせ、極小のメレダイヤを丁寧にちりばめる技術力が、その魅力を増している。

ジュエリーデザインの伝統をふまえつつも、素材の市場価値にとらわれない自由で大胆なデザイン。さきほど皮肉かと書いたけど、それだけでなく、宝石の王座に君臨するダイヤモンドや先人の技術や作品へのリスペクトも感じられる。このセンスとバランス感覚はけっこう好きだ

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ふたたびパンフレットより。今世紀のポメラートのラインナップ。

目立つ金属とおおぶりで大胆なデザイン。この第一印象から、おなじイタリア発のハイブランドのブルガリに似た雰囲気を感じていた。それで、ああ、イタリアらしいなと思いながら展覧会を観はじめた。観終わったら、ブルガリとはまた違った独創性のあるブランドだということがよくわかった。

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これは終盤にあったタンザナイトのカボションを据えたネックレス。繊細な加工技術と大胆で独創的なデザインが融合している。昨年発表されたブランド初のハイジュエリーコレクション”ラ・ジョイア(La Gioia)”のラインナップとのこと。

このラインナップにあった、色とりどりのチェーンモチーフのネックレス(ふたつ上の写真の右下)。それぞれ地金と石の種類がちがっていて、全体で虹色グラデーションになっている。それぞれの石はとても小さいのだけど、小さいからこそしっかり色を表現するのは難しそうだ。

半世紀あまりのブランドの歴史を追って、カジュアルなものを中心に、その技術や独創的なデザインを紹介した正方形の展示空間。その終わりに、かなり手の込んだハイジュエリーのラインナップ。

そうか、ラ・ジョイアがブランド初のハイジュエリーコレクションということは、これから高額商品に注力するビジネス展開のながれで開催された展覧会ということか。納得した。

この展覧会、じつは、最後まで撮影可能だったことに気がつかなかった。初めの職人さんのところが撮影禁止だったので、ずっとそうなのかと思い込んでしまっていた。だから、今回は展示品や会場の写真を撮っていない。このnoteには、代わりにパンフレットをつかった。

4つに区切られた展示コーナーの外、しめくくりの位置に、現代らしくSDGsによせた展示があった。そこにあった女性たちの肖像は撮影禁止とあり、ほかは撮影可能だったことにようやく気がついたというわけ。

そこで最後に観た展示パネル。”サステナブルジュエリー”のくだりで、わたしの勤務先が言及されていたので、撮影させてもらった。

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グリーンランドのルビーをあしらった、ぽってりとした指輪が紹介されている。これは宝飾業界のニュースサイトで見たことがある。そうか、冒頭に書いた「どこかで目にしたか耳にしたか」の正体はこれだったかもしれない。

このポメラート展、会期は9月17日から23日までと短い。もしかしたらSDGs週間にあわせた設定なのかもしれない。このブランドの鋭い時代感覚と戦略性を感じさせる。

このイベントには、公式サイトからの事前登録が必要。日時などの予約は不要。連休中、表参道界隈をおとずれる機会があれば、オススメしたい催しだった。


註※ カボション(cabochon)はドーム状の形状。通常のカボションの表面は滑らかな曲線だが、あえて平面がつくられたものには「ファセットカットされた(faceted)」ということで、こう呼ばれる。

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