求められる「日本学術会議の人選問題」を巡る議論の出発点の確認

先日来社会的な関心を集めている日本学術会議の人事問題について、日本学術会議は推薦した会員候補者が任命されない理由の説明と、推薦したものの任命されなかった会員候補者の任命を要望する要望書を菅義偉首相に提出しました[1]。

今回の出来事については、政府が日本学術会議の人事を通して学問の自由を侵害する可能性があるという指摘がなされています[2]。

一方、菅首相は「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた」と発言し、今回の人事問題について主体的に関与した可能性を示唆しています[3]。

また、「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から今回の任命について判断した」という菅首相の発言[4]は、「総合的、俯瞰的活動」とは何か、あるいは「総合的、俯瞰的活動を確保する」といは何か、という点が不明であることから、判断の適切さや妥当さを判断しがたいというのが実情です。

もとより、あらゆる人事には恣意的な要素が含まれ得るものであることは疑いえません。

あるいは、新たに任命が必要な人数と同数だけの候補者が推薦され、任命されるという形式も、再考の余地があるかも知れません。

しかし、日本学術会議に関しては根拠法となる日本学術会議法が存在します。従って、法律の解釈に関する過去の国会答弁や根拠法そのものの規定と一致しない措置が取られたとするなら、判断の適切さそのものが議論の対象となることは当然です。

そのため、もし日本学術会議の会員候補の選考の方法や組織のあり方そのものに改善の余地があるとしても、法律の解釈と運用の問題とは切り離して検討する必要があるでしょう。

その意味でも、菅首相をはじめとする政府関係者には、日本学術会議法をどのように解釈し、今回の判断を下したかを明らかにすることが求められます。

法律の運用と法律に規定されている組織のあり方の問題とは異なる位相の問題であるという点は基本的な事柄だけに、あえて議論の出発点として確認する次第です。

[1]第25期新規会員任命に関する要望書. 日本学術会議, 2020年10月2日, http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo301-youbou.pdf (2020年10月6日閲覧).
[2]学問の自由 脅かす暴挙. 朝日新聞, 2020年10月3日朝刊10面.
[3]首相、主体的関与を示唆. 朝日新聞, 2020年10月6日朝刊1面.
[4]学術会議の任命 前例踏襲でいいのか. 日本経済新聞, 2020年10月6日朝刊1面.

<Executive Summary>
Why Do We Have a Concern for a Choice of a Member of the Science Council of Japan? (III) (Yusuke Suzumura)

It is announced that Prime Minister Yoshihide Suga does not select some candidates for a member of the Science Council of Japan on 1st October 2020. It might be serious issue, since it is quiet different of the past answer of the Government in the Diet and implies academic freedom should be damaged in the near future.

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