「IPCによるロシアとベラルーシの選手の北京パラからの除外」の問題点は何か

今日、国際パラリンピック委員会(IPC)は緊急理事会を開催し、ロシアによるウクライナへの侵攻の問題に関連して、ロシアとベラルーシの選手及び役員の北京パラリンピックへの参加を認めない決定を下しました[1]。

IPCは3月2日に両国の選手と役員の参加を認めていただけに、1日と経たないうちに判断が覆ったことになります。

緊急理事会後の記者会見で、IPCのアンドリュー・パーソンズ会長は3月2日の決定後に北京パラリンピックへの参加を拒否する国や選手が増えるとともに、自国政府から大会からの引き上げを求められたパラリンピック委員会もあり、さらに両国の選手が滞在する選手村の雰囲気が悪化し、選手の安全が確保できな可能性があることなどを挙げ、決定の変更の理由を説明しました[1]。

国際社会の多くがウクライナに侵攻したロシアの行動を批判し、ロシアとあたかも一体であるかのような態度を示すベラルーシに対して否定的な意見を呈しています。

こうした状況を考えれば、両国の選手団の参加を認めたIPCは、国際社会の動向を知ってはいても、パラリンピックと政治、あるいはスポーツと政治は異なるという論法で事態を収拾できるとみなしていたことが推察されます。

一方、国際社会だけでなく、選手たちも最初の決定に強硬な反発を示すことは、IPCにとっては意外な状況であったと言えるでしょう。特に、選手村において選手間の対立が高まるとすれば、「多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮し活躍できる公正な機会が与えられている場」[2]というパラリンピックの理念にも背きかねません。

もとより、スポーツやパラリンピックは社会と不可分ではなく、その時々の政治的な動向にも左右されるものです。

その意味で、IPCは必ずしも厳密な見通しの下で判断を下したのではなく、選手や各国の反発を見て前言をにわかに翻してロシアとベラルーシを大会から排除しことになります。

それとともに、1日の間に全く異なる判断を下した経緯を明らかにするのでなければ、IPCはパラリンピックの主催組織としての権威を失うだけでなく、組織の運営の点でも自立性を失った、脆弱な機関であるという疑念を拭うことは出来ません。

両国選手に対して「申し訳ない。あなた方はあなたの政府の行動の犠牲者だ」と述べたパーソンズ氏の発言が当事者としての視点を失ったものでないことを示すためにも、今後、IPCには可能な限り検証可能な情報の公開が求められると言えるでしょう。

[1]ロシアとベラルーシ選手、北京パラ参加一転認めず IPC. 日本経済新聞, 2022年3月3日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH038MD0T00C22A3000000/ (2022年3月3日閲覧).

[2]パラリンピックの意義. 日本パラリンピック委員会, 公開日未詳, https://www.parasports.or.jp/paralympic/what/index.html#:~:text=%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%84%8F%E7%BE%A9,%E8%A9%B0%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%A4%A7%E4%BC%9A%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82 (2022年3月3日閲覧).

<Executive Summary>

What Is a Problem for the IPC's Decision to Exclude Russia and Belarus for the Beijing Paralympics? (Yusuke Suzumura)

The International Paralympic Committee (IPC) decides to exclude Russia and Belarus from the Beijing Paralympics on 3rd March 2022. In this occasion we examine a meaning of the IPC's decision for Russian and Belarusian Athletes.

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