「安倍元首相の国葬を巡る閉会中審査」はいかなる意味を持つか

昨日、衆参両院の議院運営委員会で閉会中審査が開かれ、安倍晋三元首相の国葬を巡る審議が行われました[1]。

衆議院議院運営委員会の冒頭で岸田文雄首相は安倍元首相の国葬について、以下の5点から適切な判断であるとしました[2]。

(1)日本の憲政史上最長の首相在任期間を記録したこと
(2)東日本大震災からの復興、日本経済の再生、戦略的外交の展開などの実績を残したこと
(3)民主主義の根幹である選挙中の遭難であったこと
(4)各国からの弔意、敬意に対し日本国として礼節をもって対応すること
(5)来日する各国の要人と集中的に会談することで安倍氏の培った外交的遺産を継承・発展させること

行政府の判断において安倍元首相の国葬を決定することは、例えば「行政権は、内閣に属する」という日本国憲法第65条の規定を根拠とすると考えれば、一定の合理性が存すると言えるでしょう。

一方、安倍氏が現職の衆議院議員として遭難したことを考えれば、立法府に事前に意見を求めることなく行政府が国葬の決定を下すことに立法府の構成である各議員が疑義を呈することも不思議ではありません。

こうした経緯を踏まえて行われた今回の閉会中審査は、岸田首相が従来の政府の見解を繰り返すとともに、各党もすでに政府の見解から答えを推測できるような質問を行うだけで、より踏み込んだ質疑を行えなかったことは疑いえないところです。

その意味で、昨日の閉会中審査は政府・与党にとっては「野党の質問に対して丁寧に回答を行った」と答える機会を、野党にとっては「国民の疑問を質すために政府に迫った」と主張するための口実を与えたと言えるでしょう。

いわば政府と与野党の証拠作り、実績作りのために行われた昨日の審議は、少なくとも積極的な意義に乏しいものであったと考えざるを得ないのです。

[1]首相「安倍氏国葬は適切」. 日本経済新聞, 2022年9月9日朝刊3面.
[2]国葬巡る閉会中審査 主なやり取り. 日本経済新聞, 2022年9月9日朝刊4面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of During Off-Session Deliberations for the State Funeral for Former Prime Minister Shinzo Abe? (Yusuke Suzumura)

During Off-Session Deliberations were held at the Both Diets to examine problems of the State Funeral for former Prime Minister Shinzo Abe on 8th September 2022. It made a fuss for both the administrative and opposition parties to emphasise of evidence to discuss the sensitive problem.

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