【追悼文】ショーン・コネリーさんを巡るいくつかの思い出

現地時間の10月31日(土)、スコットランド出身の英国の俳優ショーン・コネリーさんが逝去しました[1]。享年90歳でした。

ショーン・コネリーさんというと、代表作は『007』の連作です。

ショーン・コネリー時代の『007』の魅力は、東西冷戦という「敵」と「味方」を区別しやすい国際情勢、スペクターという明確な敵役の存在、奇想天外で役に立つときも立たないときもある秘密道具の発想の豊かさ、さらに国外旅行が難しかった時代に世界各地を舞台とする物語の展開、などが挙げられるでしょう。

それとともに、"The name is Bond, James Bond."という自己紹介からして含み笑いと茶気、そして精悍さのあるショーン・コネリー自身の演技が何よりも大きな存在感を発揮していました。

その後のジェームズ・ボンドを見ると、ジョージ・レーゼンビーとティモシー・ダルトンは精悍さの点でショーン・コネリーに劣らなかったものの茶目がなく、ロジャー・ムーアは雄々しさに欠け、ピアース・ブロスナンは茶目と品があっても大胆さに足りず、ダニエル・クレイグは笑顔が冷たすぎました。

一方、かつらを外し、目じりや額のしわを隠さなくなってからのショーン卿は「ボンド俳優」から「名優」への道を歩み始めます。

『風とライオン』(原題:Wind and the Lion、1975年)や『薔薇の名前』(原題:Der Name der Rose、1986年)、『アンタッチャブル』(原題:The Untouchables、1987年)、『プレシディオの男たち』(原題:The Presidio、1988年)など、一連の映画で演技の幅を大きく広げたように思われます。

あるいは、『オリエント急行殺人事件』(原題:Murder on the Orient Express、1974年)でのアーバスノット大佐や『遠すぎた橋』(原題:A Bridge Too Far、1977年)のアーカート少将などは、作品を引き締め、より魅力的にするために不可欠の役どころでもありました。特に1991年の『ロビン・フッド』(原題:Robin Hood: Prince of Thieves)でのリチャード1世は、登場するだけで画面の雰囲気が変わり、ショーン卿の存在感の大きさが実感されたものです。

また、『未来惑星ザルドス』(原題:Zardoz、1974年)のような低予算映画にも出演したことも、ある意味でショーン卿の懐の広さを示すと言えるでしょう。

スコットランド国民党の党員であるという熱烈なスコットランド独立派という一面が、1991年にサントリーのウィスキーの宣伝に出演したことでスコットランドで物議を醸す一因になり、元夫人のダイアン・シレントとの対立など、私生活でも種々の話題が提供されました。

ところで、ショーン・コネリーさんと私とは、ささやかながらいくつかの個人的な関わりがありました。

1つは青山高校を通した関係で、1967年の『007は二度死ぬ』(原題:You Only Live Twice)にいわゆるボンド・ガールとして出演した若林映子さんは、青山高校の1958年卒業生でした。入学後に授業の中である先生が「青山の卒業生の中にボンド・ガールがいる」という話を耳にしたときには、意外の感を覚えたものです。

2点目は教育に関するもので、日本と西欧を身体技法に基づいて比較するための手掛かりとしてスリッパを取り上げた際に、「西欧ではスリッパは病人が利用するもので屋内では靴を履くのが一般的ながら、映画『007は二度死ぬ』では日本が舞台のため、室内でスリッパを履いている場面が描かれている」と説明したのでした。

そして、第3の話題が2013年の「ジェームズ・ボンド生誕60周年」でした。

2013年10月末から11月にかけてフランス・アルザスのアルザス欧州日本学研究所に出張した際、乗り継ぎ先のバーゼル空港で購入した雑誌Paris Matchの「ジェームズ・ボンド誕生60周年記念特集」は、表紙に見慣れたショーン・コネリーさんのジェームズ・ボンドの写真が掲げられ、1962年の第1作『007 ドクター・ノオ』(原題:Dr. No)から2012年の第23作『007 スカイフォール』(原題:Skyfall)までの各作品の見どころや歴代のジェームズ・ボンド俳優の名場面などが収められた、私にとって今でも思い出深い一冊です。

改めて1960年代以降の英国を代表する大俳優であったショーン・コネリーさんのご冥福をお祈り申し上げます。

[1]Sean Connery, Who Embodied James Bond and More, Dies at 90. The New York Times, 31st October 2020, https://www.nytimes.com/2020/10/31/movies/sean-connery-dead.html (accessed on 1st November 2020).

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Sir Sean Connery (Yusuke Suzumura)

Sir Sean Connery, a Scottish actor, had passed away at the age of 90 on 31st October 2020. On this occasion I express miscellaneous impressions of Sir Sean.

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