岸田文雄首相の「改憲発議をできるだけ早く」発言は何を意味するか

昨日、岸田文雄首相は自民党総裁として党本部で記者会見を開き、改憲に前向きな勢力が参議院での発議に必要な3分の2以上の議席を維持した結果を巡り、「出来る限り早く発議に至る取り組みを進める」と表明しました[1]。

衆参両院で改憲のための発議を行える状況にあり、しかも7月8日(金)に逝去した改憲派の安倍晋三元首相の「思いを受け継ぐ」という岸田首相の発言からは、いよいよ憲法改正のための発議の可能性が高まったと思われるかも知れません。

しかし、改憲のための議論を始めるとしたこと、さらに安倍氏の遺志を受け継ぐとしたことから、岸田首相が早期の発議を目指していないことが分かります。

すなわち、議論を行えば各党各派がそれぞれの支持層の意向を受け、あるいは支援を取り付けるため自説を強硬に唱え、妥協や譲歩は難しくなるからです。

従って、これまでにも意見の集約が出来ないままであった発議のための議論を行うということは、実質的に発議そのものを先送りにすることに他なりません。

また、安倍氏は改憲を目的とするのではなく、支持層の結束や求心力の維持のための手段として用いてきたことは、すでにわれわれの確認するところです[2]。

このように考えれば、岸田首相は、安倍氏の遺志とともに、憲法改正への意欲を示し続けることで改憲派の支持を受けるという手法も引き継ぐことになるのです。

それだけに、岸田首相にとって最大の懸念は改憲勢力の中に憲法改正を手段ではなく目的とする層が議論を進め、実際に発議に至るという事態であり、いかにして状況を統制するかが重要な課題となるでしょう。

[1]改憲発議「できる限り早く」. 日本経済新聞, 2022年7月12日朝刊1面.
[2]鈴村裕輔, 安倍首相 憲法改正の本気度は?. 論座, 2018年11月1日, https://webronza.asahi.com/politics/articles/2018102600005.html (2022年7月12日閲覧).

<Executive Summary>
Will the Kishida Cabinet Amend the Constitution of Japan? (Yusuke Suzumura)

Yesterday Japanese Prime Minister Fumio Kishida mentioned as the President of the Liberal Democratic Party that a discussion for Constitutional Amendment would start soon after the will of Mr. Shinzo Abe. In this occasion we examine a possibility of a constitutional amendment.

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