「失言の構造」から考える高橋洋一氏の「さざ波発言」の問題点

本日加藤勝信官房長官は記者会見を行い、5月9日(日)に内閣官房参与の高橋洋一氏のTwitter上での発言に関連し、国民の命と暮らしを守ることを最優先に対策に取り組む考えを示しました[1]。

高橋氏は、日本や米国、英国、インド、フランスなどの新型コロナウイルス感染症の感染者数を掲載した図を参照しつつ、「日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑」と書き記しています[2]。

今回の発言は高橋氏個人の所感の類であり、加藤官房長官が指摘するように、「個々の考えや発信などについて、政府として1つ1つコメントは差し控えさせていただきたい」というべきものであるかも知れません。

その一方で、広島大学の川野徳幸氏が閣僚の発言を題材とし、ある発言が「失言」となる場合として挙げた4つの類型[3]に従えば、高橋氏の発言が少なからず問題を含むことが分かります。

すなわち、川野氏は失言の構造として以下の点を指摘しています。

(1)発言内容
(2)国内政治的な要素
(3)閣僚の発言が外交問題になるか否か
(4)国内外のマスメディアの存在

川野氏の指摘に従えば、今回の高橋氏の発言は新型コロナウイルス感染症の感染者数の多寡を「さざ波」と表現したことは適切さを欠くとともに、NHKなどが高橋氏を「内閣官房参与」と紹介しながら発言の内容を取り上げたことで、今後日本国内ばかりでなく外国でも「政府関係者が事態を軽視」といった観点から発言を報じる可能性が推察されます。

このように考えれば、加藤長官は、今後高橋氏の発言が重大な問題に発展しかねないことを見越して、あくまで個々の発言に関与しないという態度を示し、政府に影響が及ぶことを避ける措置を講じたことになります。

その意味で、高橋氏の発言はすでに「失言」となっていると考えられるのであり、「さざ波」のもたらす余波は今後大きなものになりかねないと言えるでしょう。

[1]高橋内閣官房参与 日本のコロナ感染者数を「さざ波」と投稿. NHK NEWS WEB, 2021年5月10日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210510/k10013021491000.html (2021年5月10日閲覧).
[2]高橋洋一(嘉悦大). "日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑". 2021年5月9日, 10時43分, https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1391207118502383621 (2021年5月10日閲覧).
[3]川野徳幸, 閣僚失言の政治学. 国際協力研究誌, 7(1):19-35.

<Executive Summary>
What Is a Problem of Professor Dr. Yoichi Takahashi's Inappropriate Comment on the COVID-19? (Yusuke Suzumura)

Professor Dr. Yoichi Takahashi of Kaetsu University, a Special Advisor to the Cabinet, posted a Tweet on Twitter concerned with the COVID-19 on 9th May 2021. In might be a kind of an inappropriate comment, since its meaning is improper and it is reported by media.

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