Jリーグの公式戦延期の決定における村井満チェアマンの「国難発言」の意味を考える

昨日、サッカーのJリーグは日本国内における新型コロナウイルスの感染の拡大を受け、3月15日(日)までに予定していた全ての公式戦94シアノ開催を延期することを決定しました[1]。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が今後1週間から2週間が感染の拡大と収束の瀬戸際になるとの見解を公表したこと[2]からも、不特定多数の観客が集まるスポーツの試合が延期されることは、予防的な措置として適切と言えるでしょう。

実際、本日になって安倍晋三首相が今後2週間の全国的なスポーツや文化関連の催事の中止や延期、規模縮小を要請したこと[3]は、Jリーグの対応の妥当性を傍証します。

一方、今回のJリーグの決定の発表に際して、注意を要する点があったことも事実です。

すなわち、Jリーグの村井満チェアマンは記者会見において「試合を楽しみにしていたファンには、大変申し訳ない。だが、ある種の国難である今、(感染拡大防止に)協力したい」と発言したことは、詳細な検討が求められます。

もとより、企業の活動や他国との交流が停滞するだけでなく、日常生活でもマスクや消毒用アルコールなどが店頭で入手しにくいという状況を見れば、村井氏の「ある種の国難」という指摘は、われわれにとって直観的には一定の妥当性を持つと思われるでしょう。

しかし、「国難」という言葉の意味の幅が広いことは、安倍首相が少子高齢化を「国難」と捉えているという事例[4]からも明らかです。

従って、「国難」という場合、「誰にとっての国難か」、「何が国難か」という点が考慮されなければなりません。

また、「国難」の対象や内容が明らかになったとしても、「為政者による国難への対応」と「一般市民による国難への対応」との間の異同や「国難」の種類に基づいた対策すべき事項の詳細いった点で、慎重な検討が必要であることも論を俟ちません。

その意味で、「ある種の国難だから感染防止に協力したい」という趣旨の村井氏の指摘は、心情の面で理解は出来ても、論理的にはより綿密な検討が求められると言えるでしょう。

公式戦の延期という容易ではない決断を下したJリーグであるだけに、片言隻句の不用意さによって決定の価値が損なわれることがあってはならないのです。

[1]Jリーグ 94試合延期. 日本経済新聞, 2020年2月26日朝刊35面.
[2]「1、2週間が瀬戸際」. 日本経済新聞, 2020年2月25日朝刊1面.
[3]首相、今後2週間のイベント中止要請 新型コロナ拡大で. 日本経済新聞, 2020年2月26日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56062250W0A220C2MM0000/?n_cid=BMSR2P001_202002261306 (2020年2月26日閲覧).
[4]国会論戦の詳報. 読売新聞, 2020年1月24日朝刊10面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Chairman Mitsuru Murai and His Comment on the Decision of the Japan Professional Football League? (Yusuke Suzumura)

The Japan Professional Football League announces that they decided to postpone official matches which will be held by the 15th March 2020 by the reason of outbreaking of the novel (new) coronavirus (2019-nCoV) in Japan. It is very remarkable decision. However Chairman Mitsuru Murai's comment on it might be not adequate, since he applied a term "national crisis" withouht any definition.

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