「立憲国民党」か「国民立憲党」か--「頭の体操」として考える合流後の党名

現在進められている立憲民主党と国民民主党の合流について、喫緊の課題が合流後の国会議員や衆参両院の選挙の立候補予定者の選挙区の調整であることは、昨日の本欄で指摘する通りです[1]。

ところで、現在両党の間で協議されている事項の一つが党名の決定方法で、投票により決められることとなりました[2]。

そこで、今回は「頭の体操」として、両党が合流した後にいかなる党名となるかを考えます。

まず、形式面では両党が解党して新しい政党になる新設合併方式が採用されるものの、実質的には野党第一党である立憲民主党が野党第二党である国民民主党を吸収するため、「立憲民主党」とする、というものです。

1996年に発足した民主党が民政党、新党友愛、民主改革連合と合流した際、民政党など3党は解党し、民主党も一旦全員が離党して再度入党して新しい民主党が結成されたという先例があります。

さらに立憲民主党という名称が有権者の間に浸透していること、新しい党名を採用することは清新さの演出が可能であるという利点はあるものの知名度の点で不利になることを考えれば、民主党のように新旧の違いが生じるとしても、「立憲民主党」という名称を維持することは戦略的と言えます。

この場合、難点となるのは、有権者が名実ともに国民民主党が吸収されるという印象を持つことで、人事などで旧国民民主党出身者を優遇するなどの措置を取らなければ、党内の融和を図ることが難しくなりかねません。

第2の党名の候補は、「民主党」です。

両党とも民主党の後身である民進党に由来するため、党の成り立ちの特徴を考えれば、名称を「民主党」とすることは一定の合理性があると考えられます。

実際、立憲民主党の福山哲郎幹事長が福山氏による「政権交代を果たした知名度のある政党名だ。有権者の親近感も大きい」[3]という指摘は、このような点を踏まえた発言です。

しかし、確かに「民主党」という名称には知名度や親近感があるとしても、政権を獲得した後は政権公約の実現よりも党内の主導権争いが優先され、最後は消費税の増税を巡って党が分裂し、下野を余儀なくされた民主党に対する「イメージが悪い」という指摘[4]もあります。

あるいは、2016年に民主党と維新の党による民進党が発足した理由の一つが民主党の印象の刷新[5]であったことも、われわれの記憶に新しいところです。

それだけに、「民主党」という名称は知名度と過去の出来事を比較し、前者が後者に勝ることが確信されない限り、有権者には「昔に戻っただけ」という印象を与えかねないと言えるかも知れません。

党名の第3の候補として考えられるのが、両党の名称のうち、共通しない要素である「立憲」と「国民」を用いた「立憲国民党」ないし「国民立憲党」です。

かつての「三菱東京UFJ銀行」が合併した各行の面目を保つための妥協の産物であり、2018年4月に現在の三菱UFJ銀行となったことは周知の通りです。

もとより銀行と政党とは異なるものの、合流した両党の面目を保つという意味では、「立憲国民党」ないし「国民立憲党」は両党の融和を促進する象徴的な性格を持つと言えるでしょう。

しかも、「立憲国民党」は1910年に犬養毅が憲政本党の後身として結成し、1912年に起きたいわゆる第一次護憲運動で主導的な役割を果たした立憲国民党と同じ名前です。

その意味でも、護憲政治、立憲政治の護持と促進という点で、日本の憲政史を踏まえた命名となります。

第4の党名は第3の候補の発展形であり、「三菱東京UFJ銀行」の応用となる、当初は「立憲国民党」ないし「国民立憲党」を党名とし、時機を見て「民主党」に改める、というものです。

これであれば、新設合併方式という合流の特徴と知名度のある党名の採用の二つの利点を活かすことが出来ます。

一方で、「民主党」という名称が有権者に与える印象は、第2の場合と変わらないのが難点です。

もちろん、上記の4案以外にも党名の候補はありますし、両党の対等な合流を強調するために、「立憲」、「国民」、「民主」の3語を排した新しい名称が選ばれる可能性も皆無ではありません。

ただし、本欄も指摘する通り、「名前に平仮名ないし片仮名が入っている政党は短命である」という経験的な事実があるだけに、くれぐれも過去の事例の確認だけは怠らないことが求められるところです。

[1]鈴村裕輔, 「立民と国民の合流」で重要な「選挙区の調整」は行われているか. 2020年8月12日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/8a2764e4a601c46b1897fa80c1050377?frame_id=435622 (2020年8月13日閲覧).
[2]「党名は投票で」立憲と国民一致. 朝日新聞, 2020年8月8日朝刊4面.
[3]新党「立憲民主」 立民が合流提案. 日本経済新聞, 2020年7月16日朝刊4面.
[4]首相 民主政権「悪夢」発言. 読売新聞, 2019年2月13日朝刊4面.
[5]民進党発足 衆参156人. 読売新聞, 2016年3月28日朝刊1面.
[6]鈴村裕輔, 「次世代の党」という名称が示す「石原新党」の末路. 2014年6月24日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/0ef0076af87e37ee96ef1cac290a246a?frame_id=435622 (2020年8月13日閲覧).

<Executive Summary>
Examining the Name of the New Party after Merger (Yusuke Suzumura)

It seems that the Constitutional Democratic Party of Japan and the Democratic Party For the People will merge in the near future. In this occasion we examine the name of the party after merger.

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