長崎への原子爆弾の投下から75年目に際して考える「われわれの日常と核兵器のない世界」の関係

本日、1945年8月9日(木)に長崎県長崎市に米空軍による原子爆弾が投下されてから75年目を迎えました。

1945年8月6日(月)の広島県広島市への原子爆弾の投下に続く人類史上二度目の「原爆投下」の現場となった長崎市の持つ意味については、本欄が縷説するところです[1]-[3]。

また、人類が長崎市の後に核兵器の使用という場面に遭遇していないことが関係者の尽力によるとともに、ある種の偶然の産物でもあることも、すでに本欄で指摘しています[4]。

こうした状況の中で、長崎市の田上富久市長は、「令和2年長崎平和宣言」において、世界の人々、若い世代の人々、各国の指導者、そして日本政府と国会議員に向けて、以下のように呼びかけました[5]。

世界の皆さんに呼びかけます。
平和のために私たちが参加する方法は無数にあります。
今年、新型コロナウイルスに挑み続ける医療関係者に、多くの人が拍手を送りました。被爆から75年がたつ今日まで、体と心の痛みに耐えながら、つらい体験を語り、世界の人たちのために警告を発し続けてきた被爆者に、同じように、心からの敬意と感謝を込めて拍手を送りましょう。
この拍手を送るという、わずか10秒ほどの行為によっても平和の輪は広がります。今日、大テントの中に掲げられている高校生たちの書にも、平和への願いが表現されています。折り鶴を折るという小さな行為で、平和への思いを伝えることもできます。確信を持って、たゆむことなく、「平和の文化」を市民社会に根づかせていきましょう。
若い世代の皆さん。新型コロナウイルス感染症、地球温暖化、核兵器の問題に共通するのは、地球に住む私たちみんなが“当事者”だということです。あなたが住む未来の地球に核兵器は必要ですか。核兵器のない世界へと続く道を共に切り開き、そして一緒に歩んでいきましょう。
世界各国の指導者に訴えます。
「相互不信」の流れを壊し、対話による「信頼」の構築をめざしてください。今こそ、「分断」ではなく「連帯」に向けた行動を選択してください。来年開かれる予定のNPT再検討会議で、核超大国である米ロの核兵器削減など、実効性のある核軍縮の道筋を示すことを求めます。
日本政府と国会議員に訴えます。
核兵器の怖さを体験した国として、一日も早く核兵器禁止条約の署名・批准を実現するとともに、北東アジア非核兵器地帯の構築を検討してください。「戦争をしない」という決意を込めた日本国憲法の平和の理念を永久に堅持してください。
そして、今なお原爆の後障害に苦しむ被爆者のさらなる援護の充実とともに、未だ被爆者と認められていない被爆体験者に対する救済を求めます。

もとより、核兵器の戦略的ないし戦術的な役割が失われない限り、すでに核兵器を保有している国々が「核廃絶」に進んで協力すると考えることや、民生用の原子力技術を軍事面に転用する国が新たに生じないと見なすことは心もとないものです。

しかも、「「平和の文化」を市民社会に根づかせ」るための方法として「拍手を送るという、わずか10秒ほどの行為」に象徴される「小さな行為」を挙げる点も、高邁ではあるものの、実効性を考えれば理念的であるかも知れません。

しかし、核兵器の問題は地球に住む誰もが当事者であること、そして「小さな行為」の積み重ねが「核兵器のない世界」への第一歩となることを指摘したことは、われわれの日常生活と核兵器の廃絶が連続していることをわれわれに伝えます。

その意味で、長崎市への原子爆弾の投下から75年目という節目は、われわれに日々の取り組みの持つ意味を改めて教えたと言えるでしょう。

[1]鈴村裕輔, 長崎への原爆投下から69年目に際してわれわれは何を思うべきか. 2014年8月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/3a4149cfc4d7f126c9bf31d224bdd367?frame_id=435622 (2020年8月9日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 長崎への原子爆弾の投下が持つ現在的な意味は何か. 2015年8月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/f21fa18ae1b4ae45e295e85df8dd3b37?frame_id=435622 (2020年8月9日閲覧).
[3]鈴村裕輔, 長崎への原子爆弾の投下から73年目に際して考える「するべきこと」より「したいこと」を優先することの持つ意味. 2018年8月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/4ced0c283afe7cc91b01240b760c10ab?frame_id=435622 (2020年8月9日閲覧).
[4]鈴村裕輔, 長崎への原子爆弾の投下から74年目に考える「核兵器廃絶と世界恒久平和の実現」への道のり. 2019年8月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/4d560610d2b639f81be5cadb77e80e15?frame_id=435622 (2020年8月9日閲覧).
[5]令和2年長崎平和宣言. 長崎市, 2020年8月9日, https://nagasakipeace.jp/japanese/peace/appeal.html (2020年8月9日閲覧).

<Executive Summary>
On the Occasion of the 75th Anniversary of the Atomic Bombing of Nagasaki (Yusuke Suzumura)

The 9th August 2020 is the 75th anniversary of the atomic bombing of Nagasaki. On the occasion of this memorial day, it would be meaningful for us to remember our daily small efforts is an important step to abolish the atomic bombs.

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