「総選挙と総裁選に向けた予防線」を張る菅義偉首相

昨日、参議院決算委員会が開かれ、菅義偉首相は立憲民主党の福山哲郎氏の質問に答え、東京オリンピック・パラリンピックの開催について「国民の命と健康を守ることが開催の前提条件だ」と述べるとともに、「前提が崩れればそうしたことは行わない」と指摘しました[1]。

また、菅首相は立憲民主党の水岡俊一氏の質問に対し、五輪の開催の可否について「様々な声があることは承知しており、取り組みをしっかり進めたい」とするとともに、具体的な対策として以下の事項を挙げました[2]。

(1)来日関係者の絞り込み
(2)選手・関係者のワクチン接種
(3)選手・関係者の行動管理と一般国民の接触の防止

こうした事項はいずれも一般論であり、積極的な対策とは言い難いものです。また、「国民の命と健康を守ることが開催の前提条件だ」という答弁も従来のままで具体性を欠きます。

一方で、国内の世論の動向を把握しているとし、前提条件が崩れればオリンピックとパラリンピックは行わないと理解できる答弁を行ったことは、注目に値します。

すなわち、オリンピック・パラリンピックの開催の可否次第では解散時期が夏ごろに繰り上がる展開もあり得るという観測[3]がる中で中止の可能性を示唆したことは、今年9月に行われる自民党総裁選挙の前に総選挙を行うことで求心力を維持するという菅首相にとって現時点で最善の選択[4]に沿うものです。

現在、内閣支持率が低下しています。

それだけに、オリンピックとパラリンピックを予定通り開催するのではなく、延期や中止の判断を国際オリンピック委員会に要請し、実現させることが支持率の向上に寄与すると判断すれば、菅首相はためらうことなく行動することが推察されます。

その意味で、今回の発言は大会の開催に固執するのではなく、世論の動向いかんにより異なる態度をとるためのある種の地ならしを行ったと言えるでしょう。

[1]五輪「国民の健康前提」. 日本経済新聞, 2021年6月8日朝刊4面.
[2]参議院決算委員会. 参議院, 2021年6月7日, https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=6433#4028.4 (2021年6月8日閲覧).
[3]衆院解散 今秋の流れ. 日本経済新聞, 2021年5月11日朝刊1面.
[4]鈴村裕輔, 「総裁選前解散」は菅義偉首相にとって好ましい戦略か. 2021年4月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2738cc6881dc07627c9a5b2969570077?page_id=2804 (2021年6月8日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Prime Minister Yoshihide Suga's Response Concerned with the Tokyo Olympics at the Upper House? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga responsed against the question concerned with the Tokyo Olympics and Paralymics and implied a possibility of the cancellation at the Upper House on 7th June 2021. It seems that Prime Minister Suga prepares with the future General Elections and the Presidential Election of the Liberal Democratic Party.

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