菅首相のためにあえて「日本学術会議の人選問題」への明快な対応を勧める

昨日の本欄では、日本学術会議の新委員を巡る人事が懸念すべき問題である理由を検討しました[1]。

記者会見において加藤勝信官房長官が「直ちに学問の自由の侵害にはつながらないと考えている」と述べた点については、「学問の自由」とは何か、あるいは「学問の自由の侵害」とは何を意味するのかという点が不明であるだけに、今後、より詳細な説明が求められるところです。

また、「学問の自由の侵害」については、当事者に侵害する意図がないとしても、「侵害された」と思う者がいる場合に成り立ちうることを考えれば、加藤長官の発言は事柄の一面を示しているのみであるという点には注意が必要です。

一方、「会員の人事を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能」[2]という加藤長官の発言が、1983年5月の参院文教委員会での「実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません」という政府答弁[3]との整合性で懸念すべきことは、すでに昨日の本欄が指摘するところです[1]。

9月28日に政府から届いた任命する会員の名簿に推薦した105名中99人しか掲載されていなかった点について日本学術会議が照会したところ、政府からは「事務ミスではない。任命しない理由は答えられない」との回答があったとされます[4]。

この点については、安倍晋三政権時代の2018年と菅義偉政権が発足する直前の今年9月上旬に、内閣府が内閣法制局に日本学術会議法の解釈を照会していたことが指摘されています[5]。

こうした経緯を考えれば、加藤長官が今回の措置について法律上問題がないと主張するのは、内閣法制局の確認を得た結果であることが推察されます。

しかし、もし1983年の政府による国会答弁の内容が修正されたのであれば、いかなる理由で従来の日本学術会議法の解釈が変更されたのか、また、どのような理由に基づいて被推薦者の任命が不可となったかという点が明らかにされるなければ、内閣府は法律の恣意的な解釈や運用という批判を免れ得ません。

何より、判断の正当性が疑われることは判断を下した者の信頼性を損ねざるを得ないだけに、当局者の慎重な対応が求められるところです。

そして、自他ともに認める「苦労人」[6]として内閣総理大臣の座を手にした菅義偉首相にとっても、強権的な手法を用いているとみなされることは大衆的な支持を低下させることはあっても、高めることにはなりません。

その点においても、政府は今回の人事の結果について、検証可能な根拠に基づいて明確な説明を行うことが求められるのです。

[1]鈴村裕輔, 「日本学術会議の人選問題」が懸念されるのは何故か. 2020年10月1日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/5b616c7b2f5b2267803b56ebf2a9ecca?frame_id=435622 (2020年10月2日閲覧).
[2]日本学術会議 会員の一部候補の任命を菅首相が見送り. NHK NEWS WEB, 2020年10月1日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201001/k10012643361000.html (2020年10月2日閲覧).
[3]第98回国会参議院文教委員会会議録. 第8号, 参議院, 1983年5月12日, 14頁.
[4]首相 学術会議6人任命せず. 朝日新聞, 2020年10月2日朝刊1面.
[5]学術法解釈、内閣府が法制局に2度照会 野党、国会で菅首相追及へ. 時事ドットコムニュース, 2020年10月2日, https://www.jiji.com/jc/article?k=2020100201028&g=pol (2020年10月2日閲覧).
[6]苦労人 国政の主役. 読売新聞, 2020年9月15日朝刊37面.

<Executive Summary>
Why Do We Have a Concern for a Choice of a Member of the Science Council of Japan? (II) (Yusuke Suzumura)

It is announced that Prime Minister Yoshihide Suga does not select some candidates for a member of the Science Council of Japan on 1st October 2020. It might be serious issue, since it is quiet different of the past answer of the Government in the Diet and implies academic freedom should be damaged in the near future.

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