「休日の中学部活の地域移行」に関するスポーツ庁有識者会議の不十分な議論を戒める

昨日、スポーツ庁に設置された運動部活動の地域移行に関する検討会議は、公立中学校の部活動改革の一環として休日の運営の主体を学校から地域の外部団体に移行する提言をまとめました[1]。

いわゆる働き方改革だけでなく、中学校を含む公立学校と地域との関わりが希薄になっている現在の状況を考えれば、部活動が媒介となって地域との連携が深まることは好ましいことであると言えるでしょう。

一方、あらゆる地域で休日の部活動の運営を引き受ける団体を確保できるのか否か、あるいは委託する場合の指導料や傷害に備えた保険料のいかん、さらに平日の指導との連続性など、新制度を導入する際に解決すべき問題は少なくありません。

また、提言が「全国一位に至るまで「上を目指す」仕組み」としてのトーナメント方式が「勝利至上主義による暴言や体罰、行き過ぎた指導等が生じる一因となっている」[2]とする点には注意が必要です。

すなわち、「勝利至上主義」に勝利のためであればいかなる手段も辞さない「傍若無人な図太い神経」だけでなく、「最後の勝利を得るために、清く美しく闘う」という側面もあることは、すでに本欄が指摘するところです[3]。

今回の提言や関係資料を確認する限り、検討会において「勝利至上主義」をいかなる意味で捉えるか明確に定義した形跡はなく、むしろ前者のみを「勝利至上主義」と見做していることが推察されます。

これでは「勝利至上主義」の持つ多様な側面が捨象され、議論が不十分なものにならざるを得ないのは明らかです。

また、「勝利至上主義による暴言や体罰、行き過ぎた指導等が生じる一因となっている」と指摘するものの、「暴言や体罰、行き過ぎた指導等」はむしろ「体罰温存体制」、すなわち運動部活動の成果を学校の宣伝活動の一環として利用とする運営方針や他の教員、管理職、教育委員会、保護者といった様々な媒介変数によって形作られた構造が重要であるという点も、われわれがすでに確認するところです[4]。

その意味で今回の検討会議の議論は実に心許ないものであり、今後のスポーツ庁や文部科学省での審議の中で、より実のある検討が望まれます。

[1]中学部活、休日は地域運営に. 日本経済新聞, 2022年6月1日朝刊38面.
[2]運動部活動の地域移行に関する検討会議提言(案). スポーツ庁, 2022年5月31日, https://www.mext.go.jp/sports/content/20220531-mxt_spt_oripara01-000023074_2.pdf (2022年6月1日閲覧).
[3]鈴村裕輔, 「日大アメフト問題」を考える際に見逃せない川本信正の考える「勝利至上主義」. 2018年5月23日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/fce3f4d83e7585e6b753c4e9b1ce1095?frame_id=435622 (2022年6月1日閲覧).

<Executive Summary>
What Are the Problems for the Report on "Transfer of Athletic Club Operations in Holiday for Regional Community" by the Japan Sports Agency's Expert Panel? (Yusuke Suzumura)

The Expert Panel of the Japan Sports Agency decided the report on "Transfer of Athletic Club Operation in Holiday for Regional Community" on 31st May 2022. In this occasion we examine problems of the report which might be a fundamental incompetence for it.

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