法整備は「LGBTQへの理解の促進の特効薬」か

性的少数者に対する差別発言によって荒井勝喜首相秘書官を更迭したことを受け、岸田文雄首相は自民党総裁として茂木敏充幹事長に性的少数者に対する理解の増進する法案の整備を検討するよう指示しました[1]。

また、政権与党である公明党の山口那津男代表も荒井氏の発言と更迭に関連して性的少数者の理解を促す法案の整備が重要である旨を提起しており[2]、関連法案の成立に向けた取り組みが本格化する見通しです。

今年5月にG7サミットの議長国となる日本にとって、荒井氏の発言に象徴される差別を容認するかのような態度が政府の方針と捉えられることは外交上好ましくないだけに、法律の制定という目に見える形で性的少数者への理解の促進や多様性の尊重を唱えることは、岸田首相にとって重要な措置となることは明らかです。

また、野党各党も岸田首相の性的少数者に対する理解を批判するとともに、法整備の重要さという点では与党側と一致する態度を示しています[1]。

その意味で、荒井氏の発言は不適切なものであったものの、その不適切な発言がより好ましい施策に繋がる端緒になったと考えることが出来るでしょう。

一方で、法律を制定することが性的少数者への理解にどの程度まで変化を与えるか予断を許さないかについては、例えば1986年に男女雇用機会均等法が施行された現在であっても、様々な事業者の間で男女間の雇用格差が依然として残っているという事実を参照するだけでも明らかです。

これは、法律の制定は人々の行動に法的な根拠を与えることになっても、問題を解決するための最終的な手段ではないはないことを意味します。

むしろ、法整備を行うとともに、現在も進められている、性的少数者への理解の促進を喚起したり価値の多様性を尊重する教育を通した、漸進的な変化が現実的な姿であることを念頭に置き、長期的な取り組みが欠かせません。

それだけに、与野党を問わず国政に与る人々には、問題を解決するための特効薬としてではなく、課題に取り組む第一歩であるという点を銘記しつつ、法整備をはじめとする様々な取り組みを行うことが求められるのです。

[1]LGBTQ法案 検討指示. 日本経済新聞, 2023年2月7日朝刊4面.
[2]「LGBT法整備を」. 日本経済新聞, 2023年2月6日2面.

<Executive Summary>
What Is Required Attitude for the Diet Members to Solve the Issues of LGBTQ? (Yusuke Suzumura)

On 6th February, 2023, Prime Minister Fumio Kishida ordered Secretary General Toshimitu Motegi of the Liberal Democratic Party to examine the bill for the issues of LGBTQ. On this occasion, we examine the meaning of an examination of the bill and its impact for the issues.

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