菅義偉首相に求められる「日本学術会議の人選問題」に適切に対応する態度

昨日、ヴェトナムとインドネシアを歴訪した菅義偉首相はインドネシアにおいて国内外の記者団に対して記者会見を行いました[1]。

9月16日に内閣総理大臣に就任して以来、臨時国会において所信表明演説を行い、日本国民に自らの経綸を披歴する前に外国を歴訪したことは、外交の観点からは意義があるとしても、国会を軽んじているとの誹りを免れ難いところです。

一方、記者会見では内閣の発足直後に明らかになった日本学術会議の新会員の任命問題について、以下のように発言しました[1]。

私が日本学術会議において申し上げてきたのは、まず、年間10億円の予算を使って活動している政府の機関であるということです。そして、任命された会員の方は公務員になります。ですから、国民に理解される存在であるべきだということを申し上げています。
また、会員の人選は、出身やそうしたものにとらわれずに広い視野に立ってバランスのとれた活動を行っていただきたいということ、そういう意味から私自身は「総合的、俯瞰的」と申し上げております。国の予算を投じる機関として国民に理解される、このことが大事だと思います。
また、会員の人選は、最終的に選考委員会などの仕組みがあるものの、まずは現在の会員の方が後任を推薦することも可能な仕組みになっているということも聞いています。
今回の件は、こうしたことを考えて、推薦された方々がそのまま任命をされてきた前例踏襲をしてよいのかどうか、考えた結果であります。
先週梶田新会長とお会いしましたが、各分野の研究者の英知を集めた団体なのだから、国民に理解されるように、日本学術会議をより良いものにしていこうと、こういうことで会長と合意しました。今後、科学技術担当の井上大臣に窓口になっていただき、議論を続けていきたい、このように思っています。

すでに本欄の指摘するように、日本学術会議の人事が問題となった理由は、日本学術会議が新会員として推薦した105名のうち6名が任命されなかったことが過去の政府による国会答弁の内容に一致せず、「総合的、俯瞰的」という判断の基準が日本学術会議法の規定から逸脱している点に求められます[2]。

それにもかかわらず、菅首相は依然として判断の基準を「総合的、俯瞰的」な見地に基づくものと発言しました。また、「政府の機関である」あるいは「前例踏襲」といった、法的な根拠がなく、これまでの政府が国会答弁の中で明示してきた判断の基準とも整合しない理由が挙げられています。

このような態度は、一面において菅首相が今回の措置について一切の訂正を行わないことを推察させます。それとともに、一度は決定された事項が取り消されたり何らかの譲歩がなされれば党内の基盤が必ずしも強固ではない菅首相が、政権の求心力を低下させること懸念して、判断の根拠が薄弱であることを知りつつ、措置の変更に応じていない可能性も否定できません。

いずれにせよ、菅首相には10月26日に召集される臨時国会において、日本学術会議の人選問題に関し、根拠法と過去の国会答弁を踏まえて適切に対応することが求められるのです。

[1]ベトナム及びインドネシア訪問についての内外記者会見. 首相官邸, 2020年10月21日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1021kaiken.html (2020年10月22日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「発足1か月を経た菅内閣」にわれわれは何を望むか. 2020年10月17日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/60fbf9e597dffde6620ea39752ffed5b?frame_id=435622 (2020年10月22日閲覧).

<Executive Summary>
Will Prime Minister Yoshihide Suga Change the Attitude for the "Science Council of Japan Issue"? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga went to Vietnam and Indonesia and held a press conference on 21st October 2020. In this session he did not to change his attitude for the "Science Council of Japan Issue", therefore we want him to correct an illegal decision on the issue.

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