岸田文雄首相のウクライナ訪問が示す高度情報化社会における「電撃外交」の難しさ

本日、岸田文雄首相はウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談に臨みます[1]。

ゼレンスキー大統領が岸田首相の訪問を要請していたこと、さらに主要7か国(G7)がロシアによるウクライナ侵攻についてウクライナを全面的に支援しており、今年は日本がG7の議長国を務めるということからも、各国との連携を強調するという点でも今回の訪問の意義は大きいものです。

一方、岸田首相は外遊先のインドからポーランドを経由してウクライナに入国したものの、今回の行程そのものは事前に公表されていませんでした。これは、現在もウクライナ国内で戦闘が続いており、岸田首相が標的とされることを防ぐという危機管理上の措置であり、必要不可欠の対策です。

それにもかかわらず、ポーランドでウクライナ行きの列車に乗車する岸田首相の姿が日本のテレビ局によって報道されたこと[2]は、現代社会における情報管理のあり方を考える上で興味深いものです。

確かに、今年5月にG7首脳会議が開催されるまでに岸田首相がウクライナを訪問するとなると、通常国会の会期中に首相が不在でも国会審議に支障がない時期を選ばねばなりません。また、野党側にも事前に首相の極秘の訪問を連絡しなければ国会審議が空転しかねません。

そのため、ごく限られた範囲であるとしても一部の人が情報に接している以上、何らかの形で岸田首相のウクライナ訪問が探知されるとともに、陸路による移動が最も安全であるという状況から、経路があらかじめ把握されているとしても不思議ではありません。

これは、一面において情報の流通と拡散が高度化した現在の社会ならではの出来事であり、自宅からゴルフウェアで千葉県のゴルフ場に向かい、ハーフラウンドを回った後に成田空港に向かい、日航機ではなくパンナム機に搭乗して訪米し、プラザ・ホテルでの先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議に臨んだ竹下登大蔵大臣の故事[3]の再現はほとんど不可能に近いことを示唆します。

その意味でも、岸田文雄首相には、今回のウクライナ訪問を無事に終えて帰国するとともに、国会でその成果を報告することが願われます。

[1]岸田首相がキーウ到着 ゼレンスキー氏と会談へ. 日本経済新聞, 2023年3月21日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA158PA0V10C23A3000000/ (2023年3月21日閲覧).
[2]【ノーカット動画】ウクライナに向かう岸田首相を撮った. 日テレNEWS, 2023年3月21日, https://news.ntv.co.jp/category/international/bb5de3a6d2e7428f982bdc94c794b17c (2023年3月21日閲覧).
[3]御厨貴監修, 渡邉恒雄回顧録. 中央公論新社, 2007年, 399頁.

<Executive Summary>
Prime Minister Fumio Kishida's Visit to Ukraine Implies a Difficulty of Conducting "Surprise Diplomacy" in the High Information Society (Yusuke Suzumura)

Today Prime Minister Fumio Kishida goes to Ukraine to meet with President Volodymyr Zelensky. On this occasion, we examine a difficulty of conducting "surprise diplomacy" in the high information society.

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