いずれ始球式を行うであろうトランプの思惑

去る8月3日(月)、日刊ゲンダイの2020年8月4日号の27面に、私の連載「メジャーリーグ通信」の第74回「いずれ始球式を行うであろうトランプの思惑」が掲載されました[1]。

今回は、米国トランプ大統領が大リーグの始球式を行う可能性とこれまでの経緯を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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いずれ始球式を行うであろうトランプの思惑
鈴村裕輔

ホワイトハウスで記者団に対して新型コロナウイルス感染症対策に関する記者会見を行う最中に、「8月15日にヤンキー・スタジアムで始球式を行う計画がある」と発言したのは、7月23日のことだった。

2017年1月の大統領就任以来、ドナルド・トランプは大リーグの公式戦で始球式を行っていない。

ウィリアム・タフトが1910年に現職として初めて公式戦で実施してから、歴代の大統領は開幕戦やワールド・シリーズなどを中心に始球式を行っている。

特に、公式戦開幕日に大統領が行う始球式は「大統領始球式試合」(プレジデンシャル・オープナー)と呼ばれて注目を集め、球界にとっても大統領自身にとっても重要な行事だ。

それでも、過去3シーズンにわたってトランプが公式戦での始球式を行わなかったのは、何故か。

例えば、2004年9月10日に独立リーグのアトランティック・リーグに所属するサマセット・ペイトリオッツの試合で始球式を行い、ホームプレートの手前でグラウンドに落ちたものの勢いのある速球を投げているから、始球式に嫌悪感を抱いているわけではない。

むしろ、2018年1月8日にアトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われた全米大学アメリカンフットボール選手権決勝戦の国歌斉唱に登場すると、場内の観客から罵声や怒号を浴びせかけられたことがトランプにとって「悪夢」となっているのだ。

しかし、現在、大リーグの公式戦は無観客で行われている。これなら、たとえフィールド上に登場しても客席から口笛や笑い声が起きることはない。

民主党候補のジョー・バイデンに支持率で劣る状況の中で、2004年のようにヘリコプターでフィールドに颯爽と降り立ち、伸びのある速球を投げることができる意味は大きい。体力の低下や老化が指摘されている健康状態に問題がないことを誇示し、改めて「力強い指導者・トランプ」の像を支持者に訴えられるのだ。

何より、かねてから不仲が噂される米国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチが7月23日にナショナルズ・パークでのナショナルズ対ヤンキース戦で始球式を行っているのだ。

「私の友人ランディから招待された」とヤンキース社長のランディ・レバインから直接要請されたと強調した点に、ファウチに対するトランプの対抗心が透けて見える。

だが、事前に連絡されていなかったヤンキース側がトランプによる始球式を否定すると、ホワイトハウス側は「日程が合わないことが分かった」と日程の再調整を表明した。

あらゆる点で「トランプらしさ」が現れた今回の出来事で一旦は中断した始球式ではあるものの、トランプがホームプレートに立つ日は遠くはないかも知れない。
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[1]鈴村裕輔, いずれ始球式を行うであろうトランプの思惑. 日刊ゲンダイ, 2020年8月4日号27面.

<Executive Summary>
When Will President Trump Throw the First Pitch at the Field? (Yusuke Suzumura)

My article titled "When Will President Trump Throw the First Pitch at the Field?" was run at The Nikkan Gendai on 3rd August 2020. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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