「安倍晋三元首相の国葬」を閣議決定したことの意味は何か

本日の閣議で、7月8日(金)に銃撃事件に遭難して急逝した安倍晋三元首相の国葬を9月27日(火)に日本武道館において実施することが決定しました[1]。

天皇や皇族を除き、国葬が行われるのは日本国憲法下では1967年の吉田茂元首相以来55年ぶりのこととなります。

今回は、吉田元首相の国葬の際に当時の佐藤栄作首相が葬儀委員長を務めた故事に倣い、岸田文雄首相が葬儀院長になるとともに、森昌文総理大臣補佐官を長とする国葬事務局を内閣府に設置しました[1]。

安倍元首相の逝去の時点で政府関係者が国葬を行う意向を示唆していただけに、今回の閣議決定は既定の方針に基づいた措置と言えるでしょう。

こうした政府の対応には「死の政治利用」[2]といった指摘があるものの、人の死とは当人にとっての死であるのみならず常に誰かにとっての死でもある以上、こうした指摘は何かを言っているようで実際には何も指示していないことになります。

むしろ重要であり、惜しむべきは今回の国葬の決定について国会が一切関与していないという点です。

もとより安倍晋三氏は日本の憲政史上、内閣総理大臣としての任期が最長でした。このような点を評価して政府が国葬の実施を決めるのは、行政府の長への当然の対応と言えるかもしれません。

一方で、安倍氏は現職の衆議院議員として遭難したのですから、立法府たる国会において各党会派がそれぞれの立場を明示した上で、全会一致で国葬の実施を決議し、政府が閣議決定を行うという手順が取られれば、今回の決定はより意義深いものになたでしょう。

いずれにせよ、すでに本欄が指摘したように[3]、今回の一件を契機として、国葬の実施の有無を閣議決定によるのではなく、国葬について定めた法令によって判断できるよう関連法の制定を進めることは、危機管理という視点からも重要であることを改めて強調するところです。

[1]安倍元首相の「国葬」 9月27日に実施決定 東京 日本武道館で. NHK NEWS WEB, 2022年7月22日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220722/k10013730561000.html (2022年7月22日閲覧).
[2]安倍氏の国葬は「死の政治利用」と専門家。明治以降の歴史から読み解く、政府関与の“公葬”の危うさ. ハフポスト日本版, 2022年7月17日, https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_62d0c86ce4b0b46bd7951001 (2022年7月22日閲覧).
[3]鈴村裕輔, 「安倍晋三元首相の国葬」の何が問題か. 2022年7月15日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/27f1f55d5132385edeb297eb66334832?frame_id=435622 (2022年7月22日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the State Funeral for Former Prime Minister Shinzo Abe? (Yusuke Suzumura)

The Kishida Cabinet decides that the Japanese Government will hold the State Funeral for Former Prime Minister Shinzo Abe at the Nippon Budokan on 27th September 2022. In this occasion we examine a meaning to hold the State Funeral.

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