岸田政権による「首相経験者の国葬の実施への対応策」はいかなる意味を持つか

昨日、松野博一官房長官が記者会見を行い、首相経験者の国葬に関して実施の基準を明文化しない方針を示すとともに、この方針を閣議決定する予定がない旨を表明しました[1]。

確かに、就任時は傑出した首相と国民の評価を受けたものの汚職や醜聞によって早期の退陣を余儀なくされたり、政権を引きつだ際には鈍重と思われながら時が経つにつれて評価が高まる首相がいるなど、何らかの統一された基準を設けて首相経験者の功績を判別することは難しいものです。

そのため、今回の政府の方針は妥当であるとともに、その時々の内閣が責任をもって国葬の実施の有無を判断するという考えが明確に示されたことは重要です。

一方、日本国憲法の下では首相経験者は全て国会議員経験者であることは論を俟ちません。

そのため、もし首相退任後も国会議員である人物が在職中に逝去し国葬の対象となった場合は、今回の方針のように内閣が実施の可否を決定し、決定後に初めて国会に説明するという手順では、昨年の安倍晋三元首相の国葬と同じく、国会側が反発することが予想されます。

もちろん、「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)」という内閣府設置法第4条第3項第33号の規定に照らせば、内閣府が国葬を所管することは当然です。

そして、行政権の行使の一環として国葬を行う場合、立法府である両院が内閣の判断に直接の影響を与えることは三権分立の原則に抵触しかねないものです。

ただし、内閣府設置法第4条第3条第33号は内閣府が国会を含む他の機関への事前の報告や諮詢を行うことを妨げるものではありません。

むしろ、現職の国会議員の国葬の場合には、故人が属していた院の議長に対し、事前に意見の提出を依頼するといった、ある種の儀式的な手続きを行う方が、立法府の面目を保ちつつ行政府の主体性を維持するという点でも好ましいと言えるでしょう。

少なくとも、今回の松野官房長官の発言では、国葬の実施に対して時の内閣がどの程度まで立法府とのかかわりを持つかが明示されませんでした。

それだけに、たとえ次の国葬の実施が半世紀後であるとしても、国会との協調的な関係を維持しつつより多くの人たちが賛同できる国葬を実現するための努力をその時の内閣が怠らないことが求められます。

その意味で、次に国葬の対象となる首相経験者が誰であれ、内閣の果たすべき役割の大きさに変わりはないのです。

[1]国葬、基準明文化せず. 日本経済新聞, 2023年7月4日朝刊4面.

<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Kishida Cabinet's Decisoin for the Policy for the State Funeral? (Yusuke Suzumura)

Chief Cabinet Secretary Hirokazu Matsuno says that criteria for the State Funeral for a former Prime Minister will not be introduced and the cabinet at that time will decide to hold the event or not by their own responsibility on 3rd July 2023. On this occasion, we examine the meaning of the Kishida Cabinet's new policy for the State Funeral.

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