東京五輪大会組織委員会に求められる「新型コロナウイルス問題」への予断を排した取り組み

昨日から、今年7月に行われる予定の東京オリンピックの準備状況を確認するため、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会による事務折衝が始まりました。

会の冒頭でIOCのジョン・コーツ調整委員長が「予想外の課題が出てきた。選手や観客が影響を受けないよう準備がなされているか話を聞きたい」と日本国内での新型コロナウイルスの感染の拡大に懸念を表明する一方、組織委員会の森喜朗会長は「大会の中止や延期がないことははっきり申し上げたい。(組織委に)対策本部を立ち上げており、政府と連携して冷静に対応していきたい」と発言しました[1]。

確かに、IOCには感染症によって大会を中止したり延期する規定はなく、もし日本が世界保健機関(WHO)によって流行地域に指定されたとしても、大会組織委員会と各競技団体などが競技ごとに実施の可否を判断することになるとされています[2]。

しかし、専門家の間でも終息の時期の見通しが立たない中で大会の中止や延期を明確に否定することは、一面において関係者の動揺を抑えるための措置であるとしても、他面においてはいたずらに自らの選択肢を狭めることになりかねません。

むしろ、こうした態度は、組織委員会の不退転の決意でも、疫学的な根拠に基づいた見解でもなく、「7月には収まっているだろう」という希望的な観測による期待の表れと言うべきです。

すでに、本欄は事態をいたずらに軽視したり、あるいは過剰に反応することが不適切であることを指摘しています[3]。

その意味で、森会長の発言は現行の規程に従えば、妥当なものではあるものの、事態をことさらに矮小化している感は否めません。

2016年のリオデジャネイロ大会ではジカ熱が、2018年の平昌大会ではノロウイルスの集団感染が発生したことが示すように、特定の場所に多くの人が密集するオリンピックが感染症の被害の拡大をもたらすことは容易に推察されます。

それだけに、関係者には改めて予断を排して粛然と対策を進めることが求められるのです。

[1]ICO「予想外の課題」. 日本経済新聞, 2020年2月13日夕刊11面.
[2]新型肺炎、五輪に危機感. 日本経済新聞, 2020年2月8日朝刊37面.
[3]鈴村裕輔, 「新型肺炎問題」で求められるのはいかなる取り組みか. 2020年1月29日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/469500f76d49ad9b5eb9d2fc03fd4271?frame_id=435622 (2020年2月14日閲覧).

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude for the Officials of the Tokyo Olympic Games 2020 against a Novel Coronavirus Outbreak? (Yusuke Suzumura)

The International Olympic Committee and the Olympic Games Tokyo 2020 started a 11the Project Review from 13th to 14th February 2020. On this occasion we have to point out for them to prevent against a novel (new) coronavirus (2019-nCoV) outbreak without any prejudice.

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