開幕1年前に改めて考える「IOCが東京オリンピックの開催のためになすべきこと」

本日、2020年7月24日(金、祝)に開会式が行われる予定であった第32回オリンピック競技大会、いわゆる東京オリンピックの開幕予定日でした。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、大会が1年延長されたのは周知の通りです。

また、「「五輪開催の魅力」を維持するため」、「「収益構造」を維持するため」、「支持層の高齢化を避けるため」という3つの理由から、国際オリンピック委員会(IOC)が東京オリンピックを中止ではなく延期とした経緯についても、すでにわれわれの確認したところです[1]、

あるいは、開催都市の損害には関心がなく、「アスリート・ファースト」を掲げながらも開催を強行する姿勢を示したために当の選手から「われわれを軽視している」と批判されたIOCのあり方[1]はどのように考えられるでしょうか。

オリンピック憲章に定められた「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである。」とするオリンピック主義[2]に鑑みれば、IOCの態度はオリンピック主義に必ずしも合致せず、むしろオリンピックをオリンピック主義の実現のための方法とするのではなく、経済的な利益を得るための手段として用いているかのようです。

このように考えれば、東京大会の開催問題を巡る一連の議論の中で、中止や大会の規模の縮小、さらに観客の入場の制限を行うことが放映権料やスポンサー料に影響を与えるという点が強調されることはあっても、大会に参加する選手や運営の実務を担当する関係者や市民の安全をいかに確保するかという点があたかも等閑視されているかのように見えることも不思議ではありません。

ところで、近代オリンピックの創設者であるピエール・ド・クーベルタンは、オリンピックを通した世界平和や民族・宗教などによる差別の禁止、国際協調などの実現を目指しました[3]。

この点に立ち返り、IOCは、選手には持てる力を発揮する環境を整えるとともに、オリンピックが人々の相互理解と連帯を促進する手段であることを明示することで、「商業主義」とも言われ続けてきた1984年のロサンゼルス大会以来のオリンピックのあり方に一石を投じることが出来るでしょう[3]。

そして、こうした措置を取らず、「安倍晋三首相と小池百合子都知事が大会の成功への全面的な関与を繰り返し表明した」[4]と指摘するのみでは、IOCは大会に参加する選手だけでなく、開催都市である東京都の住民ばかりでなく、日本国民の広範な支持と尊敬を獲得することは難しくなります。

大会の延期というかつてない事態に直面しているからこそ、IOCには行動の規範と活動の目的に立ち返ることが求められるのです。

[1]鈴村裕輔, 新型コロナ世界的流行でもIOCが東京五輪を中止できない三つの理由. 論座, 2020年3月24日, https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020032300003.html ( 2020年7月23日閲覧).
[2]オリンピック憲章. 第2条. 国際オリンピック委員会, 2019年.
[3]特集「東京五輪・パラ延期 この1年の課題は」. Nらじ, NHKラジオ第1放送, 2020年3月31日.
[4]OLYMPIC HIGHLIGHTS 20/07/2020. The International Olympic Committee, 20th July 2020, https://www.olympic.org/news/olympic-highlights-20-07-2020 (accessed on 23rd July 2020).

<Executive Summary>
What Is an Important Duty for the IOC to Hold the Tokyo Olympic Games in 2021? (Yusuke Suzumura)

The 23rd July 2020 is the estimated opening day of the Tokyo 2020 Olympic Games which is postponed in 2021. In this occasion the International Olympic Committee (IOC) has to reexamine its duty and a meaning of Olympic games, since it seems that the IOC seeks economic interests but players or other participants' benefits.

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