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働け、日本人

日本人は働きすぎなのであろうか?
昔の日本はそうだったが、今はどうだろうか?

昔の日本社会は、今とは全く正反対だ。
1989年の流行語大賞では、「24時間、戦えますか」がランクイン。
栄養ドリンク「リゲイン」のCMで、サラリーマンに扮した時任三郎が発するキャッチフレーズだ。
今の日本では、全く受け入れられないキャッチフレーズだろう。
30年前の日本は、残業を当たり前とした仕事の仕方だったことが分かる。

では、今はどうだろうか?
ここ5年で働き方改革が推進され、日本全体として長時間労働の解消に取り組んでいるところだ。
また、就活生の職場選びにおいても、「残業時間」をかなり気にするようになり、いわゆる「ホワイト企業」への就職を希望する就活生が多くなった。

まずは、諸外国と比較してみよう。
「令和4年版 過労死等防止対策白書」において、年平均労働時間は、アメリカ(約1800時間/人)・韓国(約1900時間/人)は、日本(約1600時間/人)より長く、イギリス(約1500時間/人)・フランス(約1400時間/人)ドイツ(約1300時間/人)は、日本より短い。

意外ではないだろうか?
日本が異常に勤勉であるから、長時間労働をしているように思っていたかもしれないが、アメリカや韓国の方が労働時間が長い。
一方で、イギリスやフランス、ドイツといった、ヨーロッパの国よりかは日本人のサラリーマンは時間的には働いている。

しかし、日本のサラリーマンの労働時間は、大きく減少している。
同じ白書によれば、一人当たりの労働時間は、平成5年には約1900時間/人だったのが、令和3年には約1600時間/人。
300時間ほど減ったということだ。1日の労働時間を8時間とすると約37日減っている。
アメリカ・イギリス・フランス・ドイツと比較しても、これらの国の労働時間はほとんど変わらないにもかかわらず、日本は大きく減少している。

日本は、ここ25年間ぐらいで、1か月と1週間分ぐらいの労働時間が減っている。
また、ここ5年間のみならず、そもそも労働時間は減少傾向。確かに平成30年から80時間ほど減少しており、減少幅は大きい。
今のハイクラス(50歳~60歳)の方々より、今の20代~30代のサラリーマンは間違いなく、時間的には働いていない。

「時間的に」というのは、意図がある。仕事の「生産性」は、別の話であるからだ。
日本の労働生産性は、1995年と比較すれば、1.7倍になっている。テクノロジーの進展もあると思うが、現代の方が生産性は高い。
ただし、諸外国より生産性の伸び率が低いことが問題だ。人口減少が進み、労働人口が少なくなっているにも関わらず、他の国より、労働生産性が低い。また、労働時間自体も他国に比べて減っている。
これでは、日本のマーケットが小さくなっていくのは、目に見えている。

労働生産性の推移(OECD.Stat, OECD National Accounts Statisticsより)

それでは、始めの質問に戻ろう。
今の日本の現状は、「日本人は、昔は働きすぎてたけど、今はほどほどになってきている」という感じではないだろうか。
それでは、今後日本はどのようになっていくべきだろうか?

これに対する答えは難しい。
今、「日本は豊か」だと胸を張って言えない状況になりつつあると思う。
物価上昇しているにも関わらず、労働賃金は上がらない。
子供の出生率が上がらず、人口減少・高齢化が進んでいる。
もちろん、今の現役世代がやったことではない。むしろ、働きすぎていた世代が招いた結果かもしれない。

ただ、現役世代は、もう少し日本社会を良くしようと働くべきだと思う。
これは労働時間ではなく、もっと生産性を上げるための努力をすべきだろう。
昔のやり方を引き続き使うのではなく、新しい方法やテクノロジーの活用等に目を向けること、また副業などを通じて新たなスキルをつける努力が必要だ。
すでに問題意識を持って取り組んでいる人もいる。特に副業はやりやすくなった。

私が尊敬してやまない、古市公威という、明治時代の土木技術者がいる。
明治期のインフラ整備を進めた、第一人者だ。当時人力が主であった、土木工事にヨーロッパから機械を取り寄せ、土木事業のプロセスを改善した者である。
彼がフランス留学中に残した逸話がある。
古市が風邪をひいても勉強をしていたため、フランス人の寮母が、「今日は休みなさい」と声をかけた。その時の古市の答えは「私が一日休めば、日本が一日遅れます」と言ったらしい。
これだけの意識がある日本人が今、どれだけいるだろうか。

働け、日本人。
死ぬまで働く必要はない。死に値する仕事などない。
しかし、豊かな日本を、あなたの子供・孫に残していくため、そして、日本は良い国だと胸を張って言えるよう、精一杯働き、良い社会を作ろう。

※本内容は、天狼院書店の「メディアグランプリ」に掲載されております。


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