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「No Straight Roads」感想:「ゲームにおける音楽を大事にする気持ち」が突出した、音楽好きにはたまらないゲーム


サウンドの圧倒的なこだわりを筆頭に、
ビジュアルやカットシーンで醸成された世界が
楽曲の魅力を更なる高みへと到達させている意欲作



このnoteではゲーム序盤以外の物語の核になるネタバレはありませんが、
ボス戦や楽曲、マップ、スタッフロールなどの
スクショ、動画、文章での紹介がありますのでご注意ください。





最初にやること

PS4版(多分switch版も)は、ソフトのアップデートがあるので実行して、必ず再起動しましょう。ゲームを開始したら、オプションから言語選択(language)を選び、日本語に設定。デフォルトが英語なので、ここで選択しないと英語音声+字幕でゲームが始まってしまいます。


ストーリー

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「ビニールシティ」(Vinyl City)という街の音楽レーベル「NSR」のオーディションを受けた、インディーロックバンド「Bunk Bed Junction」のメイデイとズーク
しかし審査員に、「ロックの時代は終わった、今はEDMの時代」と一蹴されてしまいます。

このビニールシティでは、NSRにより「音楽を電力に変える技術」が使われており、音楽の力が街の電力を支えています。NSRが支配していると言っても過言ではありません。
審査落選後、テレビで自分たちの審査の様子(電力がどのくらい発生されたか)を見たメイデイ達は違和感を覚えます。

自分達の演奏は他の候補者より電力を多く生むことが出来ていたのに、審査では落とされていた...つまり、不正行為によって意図的に審査を落とされた、ということに気づきます。

直後、EDMレーベル「NSR」の審査員であるタティアナより町全体へ、「今後のオーディションではロック・ミュージックを禁止する」という放送がなされます。オーディションを通過したければ、EDMがいいでしょう、とも。
さらに、街では電力がNSRのエリートに優先されている事実を知る2人。

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ロックを否定し、電力を優先的に使う、権力の乱用を行っているNSRに対し憤りを感じたメイデイとズークは、打倒NSRを心に決め動き始めます。

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簡単にゲームシステム紹介

ゲームジャンルはアクションアドベンチャー。
基本的な流れはボスを倒す→新マップ解放→(スキル等強化)→新マップへ移動しボスを倒す、という繰り返しです。

新マップ解放と言っても、解放されるマップそれぞれは大きくなく、またRPGのようにショップがあるわけではないので、ほぼ世界観醸成のための演出と言っていいと思います。
NPCや拾えるアイテム、インタラクションできるものはありますが、1マップを隅々まで見回っても、5分もかからない程度の大きさです。

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戦闘システム

戦闘は移動、ボタンに連動した近接攻撃、遠距離攻撃、演奏、スキルが基本になっています。
近接攻撃は単純にボタンを押すと発生。アクションRPGでよくあるやつです。
遠距離攻撃は射撃ですが、これは敵を倒したりして弾を手に入れないと使えません。また、射撃できる敵も限られています。
演奏は特殊で、特定のオブジェクトの近くで演奏ボタンを長押しすると、そのオブジェクトが攻撃や防御を援護してくれる砲台のようなものになってくれたり、ステージ間移動のスイッチになってくれたりします。
スキルは各キャラクターにプレイヤーがセットした特殊なアクションです。回復だったり、攻撃範囲増加だったり、ミサイルでの攻撃だったり。

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これらに加え、ローリングでの回避や、敵の特定の攻撃に合わせてタイミングよくボタンを押すと発生する「パリィ」があります。パリィが発生すると、敵へと攻撃を跳ね返します。これが結構重要です。

システムとして特殊なのは、このゲームにおける攻撃の回避やパリィについては、目で見て対応するというよりは「BGMを聞いて対応する」という方法がとれる、ということです。

このゲーム、敵の攻撃はBGMのリズム、拍に合わせて行われます。
音ゲーで音に合わせてボタンを押したりタッチするように、このゲームでは音に合わせて敵の攻撃を避けたり、跳ね返したりするのです。

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戦闘ステージ&ボス戦
基本的には、雑魚敵のいるステージをいくつか突破してからボス戦となります。各ステージを攻略しながらボスの待つ最奥まで進んでいきます。

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ボス戦ですが、基本の戦闘システムは変わらないもののステージのデザインがボス戦用のものに変わります。かつ、途中でカットシーンも挟まり敵の攻撃パターンも多彩に変わっていく展開で、飽きることの無い作りとなっています。

ボス戦までの雑魚敵のいるステージは決して長いものではなく、初見でも長く時間がかかるものではありません。
どちらかというとボスラッシュ系のゲームに近いかと思います。
各ボスにオリジナルのステージが用意してあるシステムは、同じように各ボスに特殊なステージ・ギミックが設定されている「風のクロノア」のボス戦を思い出しました。

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キャラクターの強化

スキルツリーが存在し、キャラクターを強化できます。
音楽をテーマにしているだけあって、強化に必要なものは「ファンの人数」。
これはボスを倒した際のスコアで増加数が違い、ボスを素早く、あまりダメージを受けず、多いコンボで、かつパリィを多く行うと高いスコアとなり、ファンの増加も多くなります。単純に言うと、RPGにおける経験値のようなものです。

一度倒したボスとはいつでも戦えるので、ボス戦を繰り返すことでどんどんファン数は増えていきます。レベル上げみたいなことも、できるということです。

また、消費型アイテムのステッカーで一時的にステータスを向上させたり、スキルの変更なども行えるため、戦闘ステージ前の下準備が可能となっています。

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基本システムはこんなところです。
全体的なアクションの難易度は少し高めかな、と思います。



開発したところ

マレーシアのインディーゲームスタジオ「Metronomik」が開発。

ビットサミットのNo Straight Roadsページから引用すると、

Metronomik(メトロノミック)はマレーシアのクアラルンプールに拠点を置くインディーゲームスタジオです。ディレクターは、FF15のリードゲームデザイナーを務めたWan Hazmer(ワン・ハズメー)と、ストリートファイター5のコンセプトアーティストを務めたDaim Dziauddin(ダイム・ゼィアウディン)の2人。アクションアドベンチャーゲーム「NO STRAIGHT ROADS(ノー・ストレート・ロード)」は本スタジオ第一作目の作品となります。

とのことです。


IGN JAPANの動画でもこのゲームについて触れられていますが、確かにキングダムハーツっぽさもありますね。やはりFF15のリードデザイナーの方がいらっしゃることも関係しているのでしょうか。

そんなMetronomikの第一作目の作品。
素晴らしい部分がとても多くありました。



とにかく音楽が最高

このゲームは「ロック VS EDM」がテーマになっています。音楽をテーマにしているだけあって、BGMのクオリティの高さは圧倒的。

全曲サブスクにて配信されているので、ぜひ聞いてみてください。

ストーリー上、戦う相手が「EDMレーベル」なので、基本的にはEDM、クラブミュージックが中心となっています。



どの曲も非常にかっこいいのですが、私は特に「VS SAYU」という曲が気に入っています。

これはゲーム内で「SAYU」というバーチャルアイドルと戦う際に流れる楽曲となっています。

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スピード感あふれるドラムンベースに女性ボーカル。少し切なさも感じるようなメロディ、盛り上がるサビ、そして歌い方が激しく変化しアクセル全開で突っ走る後半部分。爽快感とスピード感で今年一番好きなゲーム音楽になりました。

「VS SAYU」で歌を担当しているのは、Nikki Simmonsさん。英語版のSAYUのCVも担当されています。コンポーザーのJames Landino氏とはスマホ用音楽ゲーム「CYTUS II」でも共演されていますね。

ここまではまあ、音楽の質が高いゲームなんだなという印象です。
しかしこのゲームの音楽に対するこだわりの強さは、他のゲームとは更に一線を画していました。



別言語の楽曲を制作するというこだわり
このゲーム、デフォルトの言語が英語であり、オプションで日本語に変更できます。
基本的にそういった言語変更で変わるのはテキストのみであるパターンが多いと思いますが、このゲームはなんと、言語変更するとBGMの歌まで日本語に変更されるのです。

この「VS SAYU」という曲は、ゲームの言語を日本語に変更すると、もともとの英語で歌われた曲ではなく「日本語版でSAYUのCVを担当された山本亜衣さんが歌った日本語バージョンに変更される」というこだわりっぷり。当たり前ですが、歌詞も日本語になります。

海外のゲームが、セリフを日本語訳して日本で販売されるのは特に不思議ではありません。CVまで入り、フルボイスで日本語化されたら、かなり力が入っているな、と思います。

しかしこのゲームはそこでは留まらず、日本語バージョンの曲まで制作しています。メジャーなゲームでもなかなかそこまで力は入れていないのではないでしょうか。


確かに、それまで日本語で話していたキャラクターが、歌の場面になると急に声が変わり流暢な英語で歌いだすというのは、違和感と言えば違和感です。その違和感を徹底的に取り除いてきたのが、このゲームなのです。
ユーザーに音楽を楽しんでほしい気持ち、言語が異なる音楽で没入感を阻害されたくないという気持ち、そして音楽をとても重要視している姿勢を感じました。

ちなみに「VS SAYU」という曲は英語verと日本語verが存在し、その他の言語は存在しません。
このゲームではもう1曲、歌が入っている曲(ラップの曲)があるのですが、サブスクのOSTから確認するにこれは英語verとフランス語verが存在しています。全世界に視線を向け、プレイヤーに音楽の価値を損なわせたくないという気概を感じます。

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別アレンジの曲も収録
さらには、楽曲に対して言語が異なるバージョンだけではなく、曲自体の別バージョンも存在します。要は、言語ではなく音楽ジャンルとしての別アレンジ曲も制作されているのです。

この力の入れ方が、この「VS SAYU」単曲だけでなく複数の曲で行われていることから、いかに音楽へのこだわりが強いかがわかります。


vs. SAYU (Rock Version) (From "No Straight Roads")


vs. SAYU (Vaporwave Version) (From "No Straight Roads")

ボス戦においては、戦闘中の展開でBGMが別のアレンジに瞬時に変わることを確認しています。戦闘を単調にしないために制作されていることもあると思います。

加えて、プレイヤーが任意にプレイするアレンジを変更できることが関連していると思います。下記画像の中心部に記載してある通り、ロックバージョンやEDMバージョンでボスと戦闘が出来るのです。

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言語だけではなく、曲調のアレンジも収録し楽しめるこのゲーム。もともとの曲が高いクオリティなだけに、「別のアレンジも聞いてみたい」という欲求でボス戦を再度戦ってみるということもありました。

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声へのこだわり

BGMだけではありません。ボイスも力が入っています。

インディーゲームでありながら、サブキャラまでフルボイス。
しかもメインキャラは佐倉綾音さんと福山潤さんという、アニメ・ゲーム等で第一線を張っている声優さん。

さらに、スタッフロールで発覚したのですが、このフルボイスローカライズが日本語だけでなく、フランス語も、スペイン語も
英語だけでない多言語ローカライズ(フルボイス)へのこだわり、つまり自分の母国語や理解できる言語でキャラクターが話すということが、ゲームの魅力が高まることを確信しているからこそのこの対応だと考えます。

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キャラクターのキャスト欄に記載されている言語が「EN,JP,FR,ES」

日本語版公式Twitterの声優紹介も非常に丁寧で、ゲームとして声優さんを尊重している様子を感じられます。
ゲームの公式Twitterって、ガチガチに会社感があるか逆に緩すぎるかってなりがちですが、NSRの公式Twitterは本当に丁寧で、困っているユーザーに積極的に交流しており、このゲームに対する愛を感じられて好きです。



音楽を含んだ演出へのこだわり

小節に合わせたカットシーン演出
このくらい音や声にこだわっている作品だからこそだと思うのですが、カットシーン(ムービーシーン)での演出が素晴らしかったです。特に、一部のボス戦直前のカットシーン。

特に好きなシーンは、後述の2つのボス戦直前のカットシーンです。
それらのシーンでは、多少強引に、「それまで流れていたBGMをぶった切って」ボス専用BGMが挿入されているところです。

カットシーンではBGMが流れながら、キャラクターのセリフや動きがあり、ボス戦テロップが流れてプレイヤーの操作へと移っていく、というのが決まった流れとなっています。
しかしこのカットシーンにおけるボス専用BGMは、カットシーン開始時やカットシーンの特定タイミングから、唐突に流れ始めます。
ではなぜ強引にボス専用BGMを、前曲をぶった切っても流すのか

まずは、以下の動画を見てもらえればと思います。

これ、動画冒頭(動画の3秒くらい)でドラムンベースの「VS SAYU」という曲が唐突にカットインされて流れてきます。
そこからキャラクターの掛け合いがあり、「Bunk Bed Junction VS SAYU」という文字が流れてプレイヤーの操作場面に移ります。
ちょっと、動画冒頭の曲の入り方が急ですよね。
でもそれには理由があって。

気になって数えてみたんですが、この曲がかかり始めてからプレイヤーの操作に至るまでに費やされた「BGMの小節数」が、32小節なのです。


32小節とはどういうことか。
DJをしているからか音楽の拍や小節数は気になってしまうのですが、基本的に楽曲は8小節や16小節、32小節で楽曲が展開されることが多いと思います。J-POPでも、AメロやBメロ、サビが8小節または16小節で区切られていることって多いんじゃないかなと感じます。

つまり、BGMの小節の区切りかつ曲の展開の区切りに合わせて、プレイヤーが操作可能になるんですよね。バチっと曲の展開、小節の始まりに合わせて操作できるようになるというか。
曲の中途半端なところでプレイヤーが操作可能にならないように計算されています
このカットシーンにおいては、8小節をループしている(同じ展開の8小節を繰り返している)ことがわかります。そしてそれが4回繰り返した時点で、プレイヤーの操作に移ります。


これって、すごく気持ちいいんですよね。
私が音楽に注目してるからで、もしかしたら実はそんなに大きくない微細な違いなのかもしれませんが、楽曲の小節に合わせての場面転換が本当に気持ちがいい。
そして、先ほどの「なぜ強引にボス専用BGMを、前のBGMをぶった切ってもカットインさせるのか」。それは、このようにプレイヤーが操作できるタイミングまでの曲の長さを固定させるため、であると考えます。
ボス専用の曲がかかるタイミングをピンポイントで決めなければ、プレイヤーが操作可能になるのはBGMの小節の区切りには合いません。BGMの途中、中途半端なところで操作可能になってしまうでしょう。

あえて強引に、決められたタイミングでBGMをスタートさせることで、プレイヤーが操作可能になる瞬間を制作側の意図した小節数でコントロールできる。
そんな意図とプレイヤーの気持ちよさへのこだわりがあるとしか思えず、強いこだわりを感じました。


BGMのリズムに合わせたカットシーン演出

この演出もそうです。こちらはカットシーン開始(BGM開始)から40小節、つまり32小節+8小節のカットシーンの後、プレイヤーが操作可能となっています。
9/2訂正:よく数えたら44小節でした。32小節+8小節+4小節で、ボス名(Bunk Bed Junction VS 1010)と表示される直前、1分18秒のところから41小節目が始まっているので、そこから曲調が変わっています。

特にこの場面で特筆すべきなのは、戦う相手である5人組ボーイズアイドルグループ「1010」の動きです。どのキャラも微妙に上下しているのがわかりますが、これがぴったりBGMの拍にあっているのです。リズムをとっているというか、曲にノっているというか。

そして同時に、バックのライトもこの音楽に合わせて明滅しているのです。
こういった演出って、意外とあるようで無いんじゃないかなと思います。
他のゲームでは、BGMのリズムと合ってない(またはキャラクターと音楽の同期自体が演出の要素として考えられていない)キャラクターの動きなんて言うのは多々にしてありますし。

しかしこの演出はそうではなく、リズムに合わせて演出されています。そしてそのために、カットシーン開始時に音楽を強引にカットインしているのです
この場面でも、動画の冒頭、カットシーンが始まる瞬間に、それまでのBGMがぶった切られてカットシーン用のBGMに切り替わっているのがわかります。
決まったタイミングで強引に音楽がカットインされていなければ、キャラクターの動きとBGMのリズムがずれてしまいますよね。それを防いでいるのです。



BGMを主軸に据えた演出
こういったある意味強引なBGM挿入っていうのはあまり見ない気がします。あくまでサウンド面ですが、いかにも「ここから別のシーン始まりますよ~」と言っているように感じて、ゲームの中で不自然さが目立ってしまうので。
ところがこのゲームではそれをそのまま、強引なカットインを採用しています。それはつまり、それまでのBGMから強引に変更してでも、カットシーンにおける「音楽に合わせた演出効果」を優先したということです。

結果としてカットシーンへの移行時におけるBGMの多少の違和感は残りました...が、カットシーンの音楽とキャラクター動作、小節数と演出の長さなどのぴったりとした気持ちよさが生まれました。
キャラクターの動き、背景の明滅、BGMのリズム、プレイヤーの操作可能タイミングがそれぞれバラバラなのではなく、全てが計算され、タイミングがぴったり合う、パッケージされた演出として完成されたのです。

本当に、よくこの演出を優先して制作してくれたと思います。
大正解だと思います。
この丁寧な演出が、強引にBGMが変わる違和感が本当に小さく思えるほど、カットシーンのかっこよさの圧倒的な存在感を生んでいるのです。ゲームをクリアしても、何回も見たいシーンとなりました。

そしてそれはつまり、何度もボス戦を見たい=何度もボスと戦いたいというモチベーションにも繋がっています。ゲームプレイのリプレイ欲を、ある意味ではカットシーンが担っているように感じました。
本当に素晴らしいとしか言えません。


ボス戦でも映える音楽演出

そして、カットシーンだけではありません。ボス戦の戦闘でも、音楽の演出が非常に活きています。

そもそも前述したように、このゲームは敵がBGMに合わせて攻撃してきます。
ボス戦においては、特にそれがはっきりしており、敵の攻撃パターンを読み解く一助として、BGMをしっかりと聞くことは重要な要素になっています。

再び先ほどの「1010」との戦いですが、例えばこの動画の22秒頃に相手のセリフとして「きみたちごめんね」というセリフが聞こえ、その後爆発攻撃をしかけてきます。
この部分の攻撃もBGMの拍に沿った攻撃となっています。

BGMの拍を数えていくとはっきりわかったのですが、まず、「きみたちごめんね」というセリフの最初、「き」の部分。
これが、BGMにおける小節の1拍目。

この「きみたちごめんね」というセリフはぴったり4拍、つまり1小節で完結しています。(その後少し歌的な声の伸ばしはありますが)
そして拍を数え始めてちょうど8拍目、2小節目に爆発の攻撃が降ってきます。
4拍目にセリフが終わり、8拍目に攻撃。1小節目にセリフが終わり、2小節目の終わりに攻撃。BGMの小節に沿った演出で、アクションシーンでもBGMの重要性を無意識に感じられるシーンです。

また、この部分だけではなく、他の攻撃でも一つの攻撃(または攻撃の予備動作)に費やすのがBGMの8拍、つまり2小節が1セットとなっているのがわかります。
あくまで小節に合わせた攻撃。それはまるで、敵の攻撃すらBGMの演出のひとつであるように思えるほど芸術的であると感じます。
嫌でもBGMを意識し、かつBGMを意識することこそが敵を倒す最大のヒントになっている。そして、音楽に合わせてプレイヤーがアクションし、それがばっちりハマって敵の攻撃を見切り回避やパリィが出来たとき。それは本当に気持ちがいいものです。

これこそが、このゲームが達成しようとしていることなのではないか。アクションと音楽の融合がまさに為されている部分ではないかと考えました。

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音楽を演出するビジュアルの素晴らしさ

ビジュアルというよりは、アートワークというほうが正しいのかもしれませんが、つまりはゲームの見た目です。

ややアニメっぽい特徴のキャラクターデザインは、コミカルで親しみやすく魅力的です。

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そして、私としてはビニールシティ、つまりマップや敵と戦うダンジョンのビジュアルの素晴らしさに圧倒されました。

かっこいい、センスがある、雰囲気がいい、どう形容していいかわかりませんがとにかく世界観が抜群に良いのです。


見ていて楽しい。歩いて楽しい。この世界に行きたい。
心からそう思える、音楽が楽しそうな世界が見事に表現されていました。

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煌びやかなネオンから美術館のようなステージまで



また、物語が進みメイデイ達Bunk Bed Junctionが勢力を拡大するにつれて、NSRアーティストのオブジェクトが(おそらく彼らを支持する民衆によって)汚されていくのが細かくて良いなあと思いました。

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NSRアーティスト、DJ Subatomic Supernovaの像が落書きされている
B2J=メイデイ達Bunk Bed Junctionのこと


音楽イースターエッグ

映画「レディ・プレイヤー1」でも使われていた用語「イースターエッグ」。ゲームに関係の無い隠しメッセージみたいなもののことを表す用語ですが、音楽面でのイースターエッグ、つまり隠しメッセージがあることを、James Landino氏が自身のTwitterにて公表しています。

Aces Wildというゲームで氏が用いたメロディをこのNo Straight Roadsでも用いているんですよね。
私はこのゲームを知らなかったのですが、こういった隠し要素は、元のゲームをプレイしていなくても思わずニヤリとしてしまう要素ですね。


ノーストレスなアクション

美しい街を縦横無尽に駆け巡るわけですが、キャラクターを動かす操作性は非常に快適です。
スキルの解放でで2段ジャンプや空中ダッシュが可能になるのですが、とにかくダッシュが気持ちいい。爽快感があります。それこそ、前述の通り魅力的なマップを走り回るので、なおさら動く楽しさというものが倍増します。
また、見えない壁は目立つものの2段ジャンプでは意外と多くの建物の高所にたどり着けるのが、街を楽しむ体験として好きでした。

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街灯の上に乗ることが出来るのは作りが丁寧でいいなあと思いました。


ストーリー総括

ゲーム自体は5~6時間くらいでクリアできると思います。また、アクションメインのため物語は王道で、予想のつきやすい流れかなと思います。
笑えるシーンもありますが、脱線する話題はほぼなく目的までシンプルに一直線なストーリー。
一方で、音楽に対する熱い気持ち、ストレートなキャラクターの思いは、シンプルだからこそ余計なものが入らず、強いメッセージとしてしっかりと伝わりました。

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熱いメッセージ


惜しいところ

敵の攻撃とBGMのシンクロがわかりにくい
このゲームはBGMに合わせて攻撃をしてくる敵もいるのですが(もしかしたら全部の敵がそうなのかも)、その判断がかなり難しい。チュートリアルではわかりやすいのですが、ゲーム後半は割とわちゃわちゃしている場面で戦うことが多いので、BGMの拍を計るほどの余裕がなかったのがもったいなかったなと思います。特にボス戦へ至るアプローチ部分で、そう感じることが多かったです。波状攻撃はもう、根性で対応するしかありませんでした。

BGMのキックを思いっきり強くしてプレイヤーが拍を強く意識できるようにするとか、また敵の攻撃がもっとわかりやすくBGMの拍に合わせてくると良かったのかなと勝手に思っています。例えば、BGMの各小節の4拍目に敵が攻撃してくるというパターンで統一するとか。おそらくひとつの敵を注視していれば攻撃パターンはわかるのだと思いますが、複数の敵になるとどうしても目で見て判断するしか無くなってしまいました。


視点を動かせない
関連するのですが、戦闘するマップでのカメラ移動が出来ないのがちょっと惜しかったなと思います。ダッシュや2段ジャンプ、空中ダッシュなどがあるからこそカメラを操作したかったという場面が多々ありました。街では感じない戦闘の焦りなどがあるからこそ、なおさらもどかしかったです。これもあり、敵の攻撃を避けることがより難しくなっていたと思います。


ファストトラベルが無い
基本的にマップ移動のメリットは薄いので、クリア後など何度もボスと戦いたいときは指定のポイントまで移動しないといけませんでした。そこまで大きい問題ではないですが、ファストトラベルや、またはメニュー上や拠点である下水道からすぐに戦えるシステムがあるともっとボス戦のリプレイ性が高まったかなあと思います。
→2020/9/1 追記
  Twitterにて、「条件を満たせばファストトラベル解禁される」という情報をいただき、試したところ各マップへの移動が可能でした。物語の進行ではなく、条件付きでの解禁だったので気づきませんでした...。



翻訳について
日本語訳は90点以上だと思います。言葉遣いや使われている単語に多少違和感はあれど、意味は通じますし問題はありません...が、これがボイス付きになると途端に違和感が増幅されちゃうように感じました。
端的に言えば、「その単語の選び方なに?」「その言い回し何?」と引っかかるところが、声に出されることでより目立ってしまう。「意味は分かるものの、話されている言葉の翻訳っぽさ」のセリフが気になってしまいました。

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こういうセリフがちょっと直訳っぽい

割とメイデイとタティアナのセリフでそう感じたかもしれません。文字を読むだけならそこまで違和感が無かったのに、声に出されるとどうも引っかかる。「あ、これは翻訳されたゲームなんだよな」と我に返ってしまう瞬間があったのが惜しかったです。一方でズークのセリフにはあまりそういった違和感を感じなかったので、キャラクターのタイプにもよるのかもしれません。ローカライズの非常に素晴らしいこともあり、ちょっと気になってしまうところでした。


アップデートミスしちゃった
あとはまあ、これは私自身のミスなんですが、初回ゲーム起動時にアップデートはしたものの再起動しなかったせいで、一部のカットシーンでのセリフバグが修正されないままプレイしてしまい、興が削がれたことがありました。でも、他のゲームってアップデート後の再起動って必要でしたっけ。あんまり無いような気がします。
日本で買ってもデフォルトの言語が英語でゲーム開始されたりする部分もあり、もうちょっとユーザビリティが高くてもいいのかな? と思いました。



まとめ

いくつか惜しかった点を挙げてしまいましたが、それはこのゲームのサウンド、演出、アークワーク(ビジュアル)の完成度が非常に高かったからこそ、それ以外の要素に対してのハードルが上がって気になるところが目立ってしまった結果です。

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インディーゲームと言っていいのか迷うほどのリッチさと音楽愛を楽しめた今作。

初めはゲームのコンセプトで興味を持ち、後にtrailerを見て「vs SAYU」の曲でがっつり惹かれ、その曲のコンポーザーの一人が以前音楽イベントでも一緒になったJames Landino氏だと知り、発売日をワクワクしながら待っていました。

蓋を開けてみれば想像以上に音楽に力を入れたゲームでした。
私自身はコンポーザーではないただのゲームファンですが、音楽、というかゲーム音楽にフォーカスをあてたうえに、ここまで丁寧な音楽ベースの世界観のあるゲームが生まれたのは本当に嬉しいですし、プレイに夢中になりました。

惜しいところは確かにありますが、しかしそれを加味してもこのゲームの大ファンですし、日本語音声があるからこそキャラクターに愛着がわき、曲を好きになり、もっとメイデイやズークの活動を見たい!という気持ちになりました。
全体的に良くできたゲームもいいですが、こういった音楽やアートの面で突出したゲームもまた、強く印象を残すものです。やはり、街のビジュアルとカットシーンのかっこよさはもはや芸術品と言ってもいいレベルだと思います。

発売前に楽しみにしていたNo Straight Roads、自分の中のハードルを簡単に超えてきた、とても満足できる作品でした。
続編、DLC、音楽イベント、何かもっと楽しめ、この世界観に浸れる体験をしたいなあと強く思います。

それこそ、多くの人がプレイし、「オーディエンスひとりひとりの小さな力が、新しい何かをつくるきっかけ」となればいいなあ。心からそう思います。

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