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読書日記(3冊目)『新型コロナウイルスを制圧する ウイルス学教授が説く、その「正体」』河岡義裕(聞き手)河合香織(文藝春秋)

ノンフィクション作家の河合香織がウイルス学者である河岡義裕に聞いた語り下ろしというスタイルの本です。

第1章 新型コロナウイルス研究最前線
第2章 ウイルスと共に生きる
第3章 ウイルスと私

という3章構成です。タイトルはかなり煽動的な「制圧する」とあるのですが書いてあることはそのような「こうすれば大丈夫!」的なワイドショーみない内容からは程遠い、かなり冷静というか常識的なものです(学者が書いたものなので当たり前といえばそうかもしれないですが・・・)。断定的なことが書かれていませんし、わからないことはわからないとはっきり述べている。なのでちょっと肩透かしをくらうかもしれません。

「私たちが「新型」と読んでいるだけなのです。ウイルスからすれば新型も旧型も関係ありません」(P19)とある通り、人間側が勝手にそう名付けて騒いでいるだけという側面もありますよね。

玉石混交の議論の中では、このように最前線に立つ人(著者は専門家会議のメンバーでもあるようです)が冷静に発信することが必要なのだとも思う。ただ第1章とかは専門的な話も多いので、万人受けはしないとも思う。一方で個人的には第2章、3章の方が面白かった。

「進化とは人間が勝手に決めた定義であり、必ずしも自然界いおける生物の優位性とは一致しない」P100

「ウイルスの側からすれば、もとの宿主から移り住んだ先の生物種が、たまたま病気になったり、死んだしまっただけのことです」P128

というあたりの記述は勉強になった。一番刺さったのは以下です。

「感染者に対する批判が増大することで、行動履歴を隠蔽する人が増えるかもしれません。これでは感染経路が追えなくなり、ウイルス防止対策に支障をきたしかねません。感染者を追い詰める社会は、自分の首を締める社会なのです。」P139

ただそのための具体的な施策までは触れられてはいません。それは著者ではなくて、政府・行政・マスコミ・企業というか僕たちの市民一人一人が考えて実践することではないでしょうか。

ちなみに聞き手の河合さんには『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』という傑作ノンフィクションがありますので興味がある方はぜひ。

この本については改めて別の機会に書きたいと思います。






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