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コーポレート・トランスフォーメーション

読書記録、2021年の3冊目は「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」です。
この新型コロナウイルスの蔓延という壮絶な変化が起きている時代に、日本企業がいかに生き延びていくかを、企業再生などを数多く手がけた経験を持っている筆者が世に提示する内容です。感想というよりも自分のメモ的な内容になってしまいますが、ご容赦ください。

ジャパン・アズ・ナンバーワン

この本ではなぜ日本的経営や日本の経済システムがなぜ世界一になれたのかという点から振り返っていきます。

日本的経営モデルは、アメリカが作った市場の上にいかに効率的に同一的に大量生産できるかというゲームにおいて特化し、規模の経済や経験蓄積によるコストカットなど、時代の合理性にマッチしていた。

要は市場を自分たちが作り上げた訳ではなく、アメリカなどが作った既存の市場の中で徹底的にオペレーショナルな部分を磨くことで、勝ち上がってきた。
現在も日本の会社は同質的で閉鎖的なスタイルがまだ多くの会社で踏襲されており、そこにグローバル化やデジタル化の破壊的なイノベーションの波がやってきて、その波に対応できない状態が今である。

野球をやっていたメンバーでサッカーをしなくてはいけないという表現がまさしくで、そりゃー勝てる訳ないよと。だからこそ、変革=トランスフォーメーションが必要とのこと。

両利きの経営

両利きの経営
・既存事業の深化→収益力を高める
・イノベーションによる新たな成長機会の探索

環境の変化が激しい時代では、未来の予測が難しい状況であり、長期的な戦略が立てづらい状況の中で、組織能力自体を最も重要な経営対象としてその可変性を大きくしないと持続的に競争優位性を保つことができない。筆者は「戦略は死んだ」と表現しています。

戦略から組織を作っても、組織から戦略を作ってもこの荒波を乗り越えることができない、とにかくどんな変化にも対応しながら、可変していく組織が大切だということと理解しました。

可変性を保つためにも、本業できちんと稼いでリスクの高い投資をしつつ、事業や機能のポートフォリオを不断に見直し入れ替えるべきだと。

もう少し具体的に書くと、
・営業CFやEBITDAなどをコア指標にして、徹底的に収益力を強化しつつ、稼ぐ力を失っている事業は即時判断を下していく(徹底的に収益力を高める再生か撤退か)、固定費を薄めるために少しでも利益が出ているから事業継続という判断は誤り
・新しい擬人的な産業アーキテクチャ(AppleのIOS、AmazonのAWS、Netflix、半導体産業)の「脳」に相当する部分をおさえられるか。このアーキテクチャを構築できる組織力を確保できるか。(スマイルカーブにおける川上=企画・設計・部品、川下=販売・メンテナンスが収益力が高いため、その事業を展開することが基本であるが、それだけでは構造的に説明ができない部分があるため、より理想はこのアーキテクチャを構築できるか。)
・異質な文化を持った新たな組織能力が求められる時代において、職種・働き方とキャリアデザインの中に多元性、流動性、プロフェッショナル性をビルトインできるか。

この中でアーキテクチャの構築は本当に難しいだろうなー。日本の会社でアーキテクチャを作った事例ってあるのだろうか?(Sonyのウォークマンは該当しそうだけど)とも思うが、ただ筆者はGAFAも最初から作り上げた訳ではなく、すでに商品や企画としては世の中に存在したものであり、日本の会社が作り上げることはできるのではと問いている。

日本におけるROEや効率性追求に対する批判の誤り

世界中でキャッシュを生み出しているのはROEを追求するアメリカ企業で、営業利益が大きく、その利益を投資に回し、投資回転が高まるため、ROEが高くなるのである。

日本の会社は大量のキャッシュが生み出せずにリスクの高い投資に回せず、小さい額の自己資本比率が高まっているだけのケチな小金持ち状態である。
効率性の追求=サプライチェーンのグローバル化によって商品不足などが発生している訳ではなく、日本が推進したジャストインタイムの賜物であり、かつROE追求とも無関係である。

上の点からROE偏重を批判するのは間違っているとのことで、このコロナ禍で私もこの批判的な意見を多数見て、そいうものかと理解していたが、大きな勘違いであったと反省。

CX方法論

ここまでは概念論で、さらにここからいかにして日本の会社がトランスフォーメーションをしていくが、具体的に挙げられていく。

・若い内からタファアサイメント=タフな仕事を経験させてリーダーをやらせてみるべき
・社長は外部のガバナンス組織が選定のプロセスを透明化して選定するべき
・世界中の女性や若者から選ばれる企業を目指すべき、そのためには、人材評価もジョブ・能力ベース、雇用もジョブ型・プロフェッショナル型へ
・M&Aを成功させる組織能力を保有するべき=上にも通ずるが、異質なものを取り込める寛容力やそれをマネジメントできる能力を持ったリーダーを育てるべき
・固定費は気づかぬ内に上がっていくので、徹底的に根本から見直して、削っていく
・事業ごとにきちんと収支を把握し、ROICやEBITDAでキチンとモニタリングをしていく

当たり前のようなことだけど、これがキチンとできている企業が少ないよねというのが実感。

日本経済の再生にはローカル企業のCXが必須

日本のGDPにおける9割はローカル経済圏(ローカル経済圏=東京都市圏のグローバル企業以外)が支えており、その多くが小売、卸売り、飲食、宿泊、エンターテイメント、地域金融、物流、運輸、建設、医療、介護などの地域密着型のサービス業と農林水産業=L型産業で中堅・中小企業が担っている。この中堅・中小企業における低生産性や低賃金をいかに変えていけるかが鍵である。

ローカル企業にどのようなチャンスはあるのかという点に関しては、以下のとおり、挙げられている。
・東京一極集中の人の流れがコロナショックにより、改善されていく(賃金がある程度確保できれば、東京よりも豊かな暮らしができる、経済的に結婚できない×環境的に子育てできない=少子化に繋がっている可能性も)
・ローカル企業はスマイルカーブでは川下のリアルにお客様と接点を持つ部分を有しており、顧客が求める真の価値を提供できれば、スマイルカーブにおける勝者になれる可能性は充分にある(小さいホテルでもインターネット経由で全世界にマーケティングができる時代)
・一定規模の商圏内でトップの競争優位を獲得してしまうと、全国区の大手でもそれを駆逐するには難しく、既存事業の進化や漸進的な改善努力という旧来の日本的経営の構成要素を使える部分が多い
・提供している価値がよりリアル×シリアスであるほど、破壊的イノベーションが起きづらく、世の中の変化にアンテナを張りながら、顧客へより良いサービスをより効率的に提供することを考えていれば、自然にトランスフォームできるチャンスもある

今、ローカル企業に属する私としても大変心強く勇気をもらえた。

個人の生き方に関するトランスフォーメーション

個人においてはそこそこ食べることができて、それなりに人の役に立てるかが重要。自分の1時間や自分の資料に対して、アカの他人が対価をはらってくれるかどうかをいかに考えて取り組めるかが、大事。自分の上司や社内の空気が顧客になってはいけない。どのような会社でも通用するプロフェッショナルな業を磨け。またその対価が得られる業も時代に伴い、変化をしていくので、注意が必要とのこと。

今回の本でここが一番自分の中では刺さった。会社がトランスフォームしていくためには、個人もそれに対応をしなくてはいけない。

参考文献リスト


この本は本当に様々な示唆を含んでいるが、まだまだ自分の知見が薄いため、半分も消化できていないように感じる。本の中で筆者がより理解を深めるための名著をたくさん紹介しており、自分もさらに知見を深めるために読んでいきたいと思ったので、最後に備忘録として整理しておきます。抜けていたら、ごめんなさい。

はじめに
p12「覇者の驕り」戦後の自動車産業の興亡を描いた1986年刊の米国におけるベストセラー

第1章 今こそ「日本的経営モデル」から完全決別せよ
p33「日本の経営」日本の終身雇用・年功制・企業別組合を戦後の日本的経営の特徴と位置づけ、その合理性・有効性を世に問うた
p45「日本経済の制度分析ー情報・インセンティブ・交渉ゲーム」日本的経営と日本的経済システムの合理性・有効性を社会学的に実証した
p57「企業参謀」
p75「ビックチャンス」ソニーのエレキ部門の衰退の詳細
p89「会社は頭から腐る」日本型カイシャシステム・日本型ガバナンスに構造的な欠陥問題がある
p91「衰退の法則 日本企業を蝕むサイレントキラーの正体」「見たい現実を見た」というようなカネボウ的な病理構造のアカデミックな分析

第2章 両利き経営の時代における日本企業の現在地
p106「組織は戦略に従う」環境に適応した正しい戦略に合わせて組織づくりを行うべし
p108「世界標準の経営理論」「経営戦略原論」戦略は経営作用の主役にはなりえない時代なので、戦略づくりにコンサルティングファームへお金を支払うのであれば、この本を読んで自分で学ぶべし
p108「両利きの経営」イノベーションの波に対峙したとき、なぜ圧倒的な経営資源を持っている既存のチャンピオン企業の多くが衰退するのか、逆にその波を上手に受け止めて繁栄を続けられる企業は何が違うのかという問いに対する答え
p110「イノベーションのジレンマ」破壊的イノベーションに関わる経営減少の理論的解明
p144「社長の条件」「タファアサイメント」により40歳でトップを出来る人材は作れる
p150「これがガバナンス経営だ!ーストーリーで学ぶ企業統治のリアル」コーポレート・ガバナンス改革推進上の実践的な論点と解決方法の詳細
p163「AI経営でカイシャは甦る」チャンスと危機は同じコインの表裏。リアル✕シリアスあるいはサイバー✕フィジカルフェーズはどんな会社にとっても大きなチャンスと大きな危機をもたらす時代

第3章 CXビジョンー目指すべき会社のカタチ、持つべき組織能力とは
p208「マイクロソフト 再始動する最強企業」マイクロソフトのCX
p209「NOKIA 復活の軌跡」

第4章 CX=「日本の会社を根こそぎ変える」を進める方法論
p229「実践の法理と法理の実践」人間の主体性を基盤においた法理論とそれを司法過程でどう現実化するか
p257 「JTのM&A」自らの生き残りのためにCX的な真剣勝負が必要であったJTにおけるM&A戦略
第5章 日本経済復興の本丸ー中堅・中小企業こそ、この機にCXを進めよ
p273 「地方消滅」「なぜローカル経済から日本は甦るのか」東京一極集中が日本全体の社会経済システムの持続性を危機に陥れるが、逆に潜在的な伸び代が地方にはあることを訴える
p282 「IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ」ビジネスの経済特性を分散型、密度のビジネスと表現することの詳細
P295 「IGPI流 ローカル企業復活のリアル・ノウハウ」

第6章 世界、国、社会、個人のトランスフォーメーションは、どこに向かうのか?
p338「歴史の終わり」グローバル化とデジタル革命は思想的には世界を経済的には自由な市場経済、政治的にはミン湯主義と人権主義という共通のシステムと価値観で包み込んでいく
p339「21世紀の資本」「サピエンス全史」人々が正しいと信じることはむしろ相対化・流動化の方向へ動き出している。これまでの資本主義、市場経済、産業化モデル、その中心にある株式会社のあり方について、世界的なスケールで議論が巻き起こっている減少も同じ。
p341「相対化する知性 人工知能が世界の見方をどう変えるのか」神のち生が絶対的であった前近代、人間の知性の絶対性を前提とする近代社会、そこに高度な人工知能が登場し、部分的であれ人間の知性を超える外部知性が搭乗した時代、すなわち人間の知性が相対化する近未来に向けて政治、社会、経済システムの大きな組み換えが必要になるのではないかという問題意識から書かれた極めて知的にエキサイティングな著作
p362「企業成長の理論」経営者が担う「経営サービス」そのものが、それ自体が、重要な生産資源の1つである
p363「昭和16年夏の敗戦」日本の組織体には権力構造の中心を真空化していく特性があり、それゆえの不作為の暴走、空気の暴走が致命的な過誤を生むことを活写

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