生活は大喜利じゃない

 花火の音が聞こえる。ベランダに出ても一切見えないことを知っているから、カーテンは閉じたままにした。


 見えないところで響く花火は、人の頭でステージが見えないライブハウスのようなもどかしさと虚しさがある。ヘッドフォンをして夏に蓋をしよう。ノイズキャンセリングよ、あとは任せた。

 

 音楽を聞きながら手の甲を見ると、蚊に刺された跡があった。ぎょっとして腕や足を見ると、いくつか刺されたあとがあった。家から一歩も出ていないのに。ということは、犯人はうちにいる。

 ぐるりと部屋を見渡すと、壁に止まっているのを見つけたので、ティッシュを片手に忍び寄る。壁を叩いたら、黒い汚れがつきそうでいやだなと考えていたら、逃げられてしまった。

 
 小学生くらいのときに買ってもらった携帯用の虫除けスプレーをする。あまり使わないのでまだ残っていた。これを買ったときは、まさか家の中で使う時が来るとは思っていなかっただろう。


 こんな夏の風物詩は嫌だ。もういいよ。夏の演出は。


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