名前
時折、ただただ過去の積み重ねに圧倒されて呑み込まれそうになることがある。
たとえば、山道を歩いているとき。
ふと目に留まるあの木にも、あの花にも、飛び回る小さな虫にも、落ち葉に生えるきのこにも、すでに誰かが名前をつけていることに、驚く。
私は知らないけれど、誰かが見つけて、整理して、定義して、分類して、そんな成果の積み重なり。
小さな沢も、橋も、分岐も、頂も、この目に映る、この足で踏みしめる場所、もの、すべて、とっくに誰かが名前をつけている。
名付けて、呼んで、伝えて、遺して。
世界は、思っているよりおおきい。
過去がある分、はるかにおおきい。
名前は、遺産と言って差し支えないと思う。
私は日々、遺産の上に生きている。
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