食べごろ

ずっと気になっていた本がある。

絶対読むべきで、読まなきゃいけなくて、おそらく知りたいはずの何かが確実にある、と、分かっている本。
本(とくにロングセラーじゃないもの)は出会ってピンときたら買っておかないとすぐ棚から消えるので、買ってだけはあった本。

でも、ずっとずっと開けなかった本。

敬遠していたというのではない。
苦手というのでもない。
栄養満点、食べたら絶対おいしいものだというのはわかっているし、食べなきゃだめだというのは分かっているし。

でも、「これはまだ食べられない」とずっと感じていたのだ。
だから開けなかった。

何ヶ月かあとに開いても、数行でまた、「あ、まだ食べられない」と閉じる。蓋をする。
それを何度も繰り返し、読んでないままに何年も居させ続けた。
読まないなら読む人にあげてしまえばいいと、ささやく声もあったけれど、いつか絶対読むのだと、ずっととっておいた。

そんな本。

そんな本があったのだけど。

さっき本棚で見つけて、手にとってみたら。

あれ、と思った。
いけそう。食べられそうな気がする。
なんだか程よく熟れているような気がする!

これはたいへんに嬉しかった。

そうなのだ。私は待っていたのだ。
食べられるようになるのを。
ラ・フランスの追熟を待つように。
渋柿の渋が抜けるのを待つように。

読めそうだと思えることは、この上ないよろこびだ。
これはじっくり味わわねば。

この週末は、全て放り出して本を読みたい。

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