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金曜の夜

金曜の夜のダンスフロアに半年以上もいない。信じられないくらい奇妙な気分だ。

名前すら知らない君。横でブリっているあなた。なんかもう呂律が回ってないけれど大丈夫?
でも、みんな超楽しそうだね。なんでだかわからないんだけど、俺の身体はとても熱くて頭は妙に冷めているからフロアの全てが見えている。
君の動きと呼吸の仕方。あなたが踊りながらぶつかってくるときの温もり。レーザーが映し出す湯気はフロアにいる全員の感情を写し出したように揺らめいている。巨大な音圧で今にも台から落ちてきそうなプラスチックグラス。あー、すべてが懐かしい。

何千回も名前を聞かれて、何百回も名前を聞き返したけれど、どれもまともに覚えていないし、どこで聞かれたかも覚えていない。申し訳ないね。
俺はロンドンの街のどこかにいて、君も世界のどこかにいる。
君がいま、君の世界で何を想っているのか俺にはわからない。君はあの瞬間にあのフロアであの音を共有しただけの他人だから。
でも、あのときの全ては俺のどこかに確実に刻み込まれていて、君のことを不意に想い出すのは何故だろう。

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