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301人以上の企業 「男女の賃金の差異」を公表義務化されました

令和4年7月8日、女性活躍推進法の制度改正に伴い、常用労働者301人以上の企業には「男女の賃金の差異」を公表することが義務付けられました。この改正により企業はどのような対応が求められることになるのでしょうか。

■女性活躍推進法とは

2016年4月から2025年度までの時限立法として制定されたもので、正式名称は「⼥性の 職業⽣活における活躍の推進に関する法律」(通称「女性活躍推進法」)です。
女性活躍推進法は、2019年5月に改正女性活躍推進法が成立し、2020年4月1日から順次施行されているもので、 比較的新しい法律となります。

この法律が制定された背景としては、日本の抱える問題が関連しています。 ・15歳~64歳の女性の就業率は上昇しているにも関わらず、就業を希望しているが働いていない女性が約237万人ほどいる。
・第一子の出産を機に離職してしまい人が多い。
・出産や育児が一段落して再就職したとしても、パートタイム労働者などの非正規雇用労働者になる女性の割合は56%にのぼる。
・管理的立場になる女性の割合は15%程度で、国際的に見て低い水準である。 といったことが挙げられます。
(いずれも、総務省「令和2年労働力調査」・「令和2年労働力調査(詳細集計)」より。)

このことから、人口減少に伴う将来の労働力不足を懸念する状況でありながらも、 国民のニーズやグローバル化など多様性が求められる中、 女性の就業希望者を活かしきれていないため、 女性の個性と能力を十分に発揮する社会を実現することを目的としているのです。
また、企業にとっても、採用・育成に時間や費用などのコストをかけた女性労働者が離職という選択肢を取るのではなく、 継続して働き続ける環境を作り上げていくことで、 人材確保・定着、社員モチベーション向上を促すことができるというメリットに寄与できるねらいがあるとされています。

■「男女の賃金の差異」を公表する目的

この度の改正で「男女の賃金の差異」を公表義務化された理由について、 厚生労働省雇用環境・均等局長の発表した資料「男女の賃金の差異にの算出及び公表の方法について」の中で述べられています。
日本での男女賃金格差について、1965年では女性の賃金は男性の賃金の約半分に対して、2020年では男性の賃金の約70%となっています。
男女賃金格差は、長期的に見ると縮小傾向にありますが、 他の先進国と比較した場合、まだ十分とはいえないのが実態です。
この格差をより縮小させるため、男女賃金格差の要因となる管理職比率や平均勤続年数などの項目の公表に加え、 常時雇用労働者が301人以上の企業には「男女の賃金の差異」を公表することが義務化されたのです。

■企業としてどのような対応が必要か

女性活躍推進法には、企業の労働者数別で対応が若干異なります。 常時雇用する労働者数が101人以上300人未満の企業、常時雇用する労働者数が301人以上の企業はいずれも「一般事業主行動計画」を策定・届出することが義務化されております。 なお、常時雇用する労働者数が100人以下の企業は義務ではなく任意とされています。
一般事業主行動計画では、以下に記載する「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の中から、規定された数を公表する必要することとなっております。 この「規定された数」こそ、常時雇用する労働者数によって異なることとなります。

「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」
・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・男女別の採用における競争倍率
・労働者に占める女性労働者の割合
・係長級にある者に占める女性労働者の割合
・管理職に占める女性労働者の割合
・役員に占める女性の割合
・男女別の職種または雇用形態の転換実績
・男女別の再雇用または中途採用の実績

常時雇用する労働者数が101人以上300人未満の企業は、この中から1項目のみ公表することとなっており、
常時雇用する労働者数が301人企業は、この中から1項目に加え、「男女の賃金の差異」を公表することとされています。
この「男女の賃金の差異」こそが、今回の法改正で規定された内容となります。

「職業生活と家庭生活との両立に 資する雇用環境の整備」
・男女の平均継続勤務年数の差異
・10事業年度前およびその前後の事業年度に採用 された労働者の男女別の継続雇用割合
・男女別の育児休業取得率
・労働者の一月当たりの平均残業時間
・雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの 平均残業時間
・有給休暇取得率
・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率

常時雇用する労働者数を問わず、この中から1項目を公表することとなっております。

なお、「男女の賃金の差異」についての算出方法は以下の画像のとおりとなります。

表:「男女の賃金の差異」の算出方法(1)
表:「男女の賃金の差異」の算出方法(2)

■一般事業主行動計画の策定・届出のメリット

一般事業主行動計画を策定するには内容が複雑でありますが、策定・届出のメリットもあります。
・公共調達における加点評価がある
・「働き方改革推進支援資金」特別利率による資金融資を受けられる

さらに、策定した一般事業主行動計画に基づき女性の活躍推進に関する取り組み実施状況が 「優良」または「特に優良」である等の一定の要件を満たした場合に厚生労働大臣の認定マーク「えるぼし」を 自社商品や広告などに付けることができ、女性活躍推進企業であることをアピールすることができます。

「えるぼし」は3段階あり、「プラチナえるぼし」もある

一般事業主行動計画の策定・届出は常時雇用する労働者数が101人企業に義務化されていますが、 働きやすい職場環境を見つめなおすきっかけになりますので、今回の制度改正に該当しない企業でも一度見直してみてはいかかでしょうか。


[参考文献]
厚生労働省:
パンフレット「女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000614010.pdf

厚生労働省職業総合情報サイトしょくばらぼ:
女性活躍推進企業認定「えるぼし・プラチナえるぼし認定」

厚生労働省雇用環境・均等局長:
「男女の賃金の差異の算出及び公表の方法について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962287.pdf

「女性の活躍に関する「情報公表」が変わります(周知リーフレット)」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962289.pdf

独立行政法人労働政策研究・研修機構:
「男女間賃金格差」


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