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羽生結弦からの特大の贈り物、GIFT

2023年2月26日、その日人類は知ってしまった。"GIFT"という衝撃を…羽生結弦というエンターテイナーを…

いやいやもうね、思わずこんなことを書いてしまうくらい衝撃的なアイスショーだった。羽生結弦くんのGIFT、東京ドーム公演。ビフォアGIFT、アフターGIFTでは「羽生結弦は凄い」という意識に変化はなかったけれど、アイスショーという概念は大きく変えられたように思う。マジで、こんなショー見たことない!なかったよ!!

●東京ドームなのにチケットが取れない!?

まず東京ドーム公演なのにチケットがなかなか取れない、というあたりから大誤算だった。いやいや東京ドームですよ、東京ドーム。この箱ならいくらファンが詰めかけても、まぁさすがにチケット取れるだろうと思ったのに。だから発表直後の12月6日にすぐ飛行機のチケット押さえたのに。それなのに、ぜんぜんチケットが取れない。

最速先行に落ち、一次先行二次先行と落ち、その後も次々と落ち続けて、最後には一般でも落ち…これはもう諦めてライビュで見るか、とそっちでチケットを取ったのだけれども。どうしても、やっぱりどうしても「これは演出的にも、絶対に現地で見ておかないと後悔するやつ!!」という気持ちが捨て切れず。最後まで粘ってみることにして、公演数日前にやっとリセールでチケットを手に入れられた…というギリギリ感。もうほんと現地行くの無理かと思ってた…よかった…。

●感情が感想におさまりきらない

さて実際に現地に行ってどうだったか…これをうまいこと言葉にしたい、したいんだけれども。。なんかもう、色んな要素がありすぎて!うまいこと言える気がしない!!

羽生くんの半生、彼の内面をベースに構成されたストーリー仕立てのショーで。東京フィルハーモニー交響楽団と、それとはまた別にスペシャルバンドの生演奏付きで。演出はPerfumeの振付けなどを手掛けていることで有名なMIKIKO先生、イレブンプレイのダンサーさん達も参加して。技術提供はライゾマティクス…とずらずら説明だけ並べても、ちっとも伝わる気がしない。。

もしかしたら、このアイスショーが始まった時に思った「これが真の東京五輪の開会式だった!!!」が1番イメージが伝わるのかもしれない。もう演出の規模が、まさにそんな感じ。なのに羽生君の演技が、それにぜんぜん負けてないのが凄い!!

●ストーリーの重さに反した、エンタメ感がすごい

それからストーリーとしては、「あたたかな夢を抱いて歩み始めたその先は…様々な困難や辛さや孤独が待っていて…」というかなり重ための心情もあるもので。合間合間に挟まれるモノローグからは、数々の輝かしい結果の裏側でどれだけ心の中に言葉を押し込めてきたのか。傷を隠してきたのか…というのがひしひしと伝わってくる。

そんな風にテーマとしては、かなり重ための内容のはずなのに…このアイスショー全体の印象や後味は、ぜんぜん悪くないという不思議。むしろ残るのは、凄いものを見たという興奮ばかりで。もちろん、最後は闇から光へという終わり方なので、だからというのもあるんだろうけれど…これは演出や構成の在り方も大きかったと思う。あとは羽生君の演技の力も。

●あの日の再現という、諸刃の剣"ロンカプ"

前半の展開では冒頭の火の鳥以外、披露されるプログラムもしっとりとした曲調のものでまとめられており。1番大事なもの以外の何もかもがなくなっていく深い孤独、迷い、治り切らない傷、己の選んできた日々…決して明るい光の中だけを歩んできた訳ではない、それを彷彿とさせるモノローグが続く。

それでも「もう少し、もう少しみんなと跳びたい、もう少し…」という言葉の後、スクリーンに映し出されるのは『2022.02.10』という北京五輪での結果が確定した日。そしてそこから一気に日付は進み、『2023.02.26』(ショーの開催日)になったかと思うと暗転。
次に映し出された光景は、6分間練習仕様となった照明とスケートリンク。そして試合の時と同じような、ジャージ姿の羽生くん。

前半最後の演目が、この北京五輪のショートを再現した6分間練習とロンド・カプリチオーソという構成であること。これはとんでもなく挑戦的な構成だったのだと思う。だって成功すれば最上級にブチ上がる展開になるけれど、そうでなければショー全体の印象に響きかねない…という諸刃の剣だ。

プロ転向の際に羽生君が「アイスショーでも試合のような緊張感を…」と話していたけれど、まさにそれだった。有言実行の男、羽生結弦のおかげで会場全体にピリリと走る緊張感。皆が祈るような気持ちでハラハラと見守る姿は、まさに試合さながらで…

そんな極大のプレッシャーの中、あの日を取り戻すかのように見事にノーミスの演技を決めたものだから。もう会場のボルテージは一気に上がるし、ここで立たなきゃどこで立つ!と次々とスタオベを始めるスケオタ達。もちろん自分もその一員、ここは北京だ!とばかりに力の限りの拍手を送りバナーを振り(ちゃんと胸元でね!)、声を上げて寿いだ!!

いやもう、ここまでで4曲滑ってるのに疲れも見せず。さらには東京ドームという通常のスケートリンクとは違う巨大空間で、普通の試合では考えられない3.5万人もの観客に見守られながら、しかも失敗はショーの印象に響きかねないという特大のプレッシャーも跳ね除けて。決めた、やってのけた、あの日のロンカプ!!
苦しみも悲しみも辛さも全部乗り越えて、いま君はここに戻ってきた!!みたいな…最上級の感動の嵐がそこにはあって。ここでテンション上がらない羽生ファンなんていない、という展開で前半が終わったものだから。終わり良ければ全て良し、といわんばかりに明るい雰囲気で40分間の休憩へと入ることができた。


●夢が叶った"レミエン"生ライブ!

さて後半の冒頭は、嬉しくて卒倒するかと思った…!レツクレ生演奏からの、レミエン演技!!

いやね、ちょうど後半開始直前に、左右のお隣さん達とお話してて。「コロナ禍でずっと声出し応援できなかったレミエンを、生で見てキャーキャー言いたい」「クレイジーでも盛り上がりそうですね」なんて。そしたら、その直後にこの展開だったもんで…キャー!!!!!ってなるしかない。てか、なった!!!

「声出し応援だったらどれだけ現地盛り上がっただろう…」ってテレビで見ながら、ずっと思ってたプログラムが!目の前で始まって!声出しOKの環境で!!周りもノリノリ、冒頭からみんな手拍子してて、煽りに応えてヒューヒュー言ってて。羽生君のロック系プロの中では断トツに好きなレミエンを、こんな風に現地で3.5万人の熱狂と共に楽しめるなんて…ライティングもロックらしいギラギラ感、そしてここでついにシンクロライトも使用され輝く観客席、響く手拍子に上がる悲鳴、もうもう最高の経験!!スーパーカリスマロックスター、羽生結弦!!

●闇落ち表現が上手すぎる

こんな風に明るいロックプロで大盛り上がり、から始まった後半だったけれど。ここでロックな雰囲気から一転切り替わって、ポップなテクノ調の演出へ。そしてそこに流れてくる「楽しい、楽しい、楽しい、楽しいよね、楽しくない訳なんかない、楽しいでしょ…ねぇ、楽しいでしょ…」というモノローグ。
これがね、絶妙。一言ごとにだんだん闇が増していくのがわかる、声での表現がすごい。最初は本当に楽しかったはずなのに、だんだん純粋にそう思えなくなって。でもそうじゃなきゃいけない…その乖離していく心と思いが見事に伝わってくる。

そして「できますがんばります、本当にできると思ってるの?わからない、できなきゃ意味がないでしょ…」こんな台詞が積み重なっていき、人の期待を背負って立つと言うことがどれだけのプレッシャーなのか、どれ程の重荷なのかを感じさせられる。
このあたりでのモノローグは、もしも文字だけで読んだならば、または表現方法が違えば。おそらくショーを楽しむよりも、胸が締め付けられて辛さの方に心のメーターの針が傾いたと思う。

でも演出として流れる電子音はときおり不穏でありながらも機械的な重みしかもたず、むしろ軽やかでさえあり。映し出される映像はERRORやGAME OVERと言うネガティブな言葉でありながらも、どこかポップな雰囲気で。モノローグの感情の重さにあえて釣り合いすぎないよう、現代的な音楽や映像で重みのバランスを取っているようにも感じられて。あまり悲壮感を出しすぎないようにしているのかな、とも感じられた。


●フリルを着た阿修羅が、阿修羅を躍る

10年ほど前からファンをやっていれば、そして長くインターネットにいる人ならば。「フリルを着た阿修羅」と聞けば「ああ羽生くんのことね」、となると思う。ご本人はそのことを知ってか知らずか(ツイ住人のはずなので、たぶん知ってる)、ここで初披露のプログラム"阿修羅ちゃん"の演技へと移る。

このプログラム、画面に映し出されるGAME OVERの映像から始まって、歌詞的にもモノローグから繋がるようなエグさがあるというのに。というのに…!
羽生君が繰り出すアイドル並みのキレッキレダンスやオーラ、曲自体の勢いで大いに会場は盛り上がって。ここでまさに闇に飲まれてしまう、といっても過言ではないシーン直後のはずなのに。まるでアイドルのコンサートのような雰囲気に仕上げてくるところが!ずるくて上手い!!この重さと軽さのバランスの取り方が秀逸すぎるの、なんなん!?と思いつつも、めちゃくちゃ楽しい!!
まるで「スクール・フォー・グッドアンドイービル」でソフィーちゃんが闇堕ちしてノリッノリになってた時を思い出すような、盛り上がるひとコマだった。

こんな感じなので、ストーリーの骨子は重ための作りなのに。要所要所で上手く盛り上げて、エンタメ要素が入ってきて楽しさも半端ないし。
さらにカラーの違う個性豊かなプログラムが詰め込まれているにも関わらず、それらがバラバラにならないように上手いこと『羽生結弦』という軸で一貫性を持たせてあって。そこには何もかもがあったというのに、破綻せず成り立っていて。全てを見終わった後でも違和感はなくて。よくこんなショー作り上げたなあああああ…!と、ただただ唖然とするばかり。

●至高のオペラ座がここに…

ああもう、こんなにも長いこと文字を綴っているというのに。最大の衝撃シーンについてをまだ書いていない。
実は会場に入った瞬間から、ずっと気になっていたことがあった。メインスクリーンの両サイドに、巨大な手のオブジェが付いていて。(えっ手?誰の?羽生君の?え、こんなでっかい手を何に使うん…?)とずっと気になっていた。というか、観客のほぼ全員が一度は同じことを思ったはずだ。それ程の存在感をもつ巨大なマドハンドの意味がわかったのが、"光と闇の羽生結弦"というこれまた至高の出来栄えの、羽生結弦の外見的魅力を最大限に引き出したモノクロ映像が流された後だった。

会場に流れ出すオペラ座の音楽と共に、プログラム冒頭の演技をおこなう羽生結弦。スクリーンいっぱいに映された大きく揺れる巨大なシャンデリア、そしてそれが落ちていき響き渡るガラスの衝突音の後に。スクリーンに光と映像で作り上げられていく巨大な怪人・羽生結弦の大迫力といったら!!残念ながら配信では、この最後の瞬間を顔のアップしか映してないというもったいなさなので。ぜひ下記ツイートに掲載されている写真で見て欲しい。

正直シャンデリアの演出だけでも、まさにオペラ座と言わんばかりの迫力があって素晴らしかったのだけれど。その衝撃をさらに塗り替えるようなこの怪人の演出には、現地でもどよめきの声が上がっていたように思う。それくらい度肝を抜かれたし、「手!手!これだったんだ!!!」という理解と驚愕はこの驚かされることばかりだったショーの中でも、極めて印象的なシーンだった。

また怪人の苦悩と二面性が、まさに直前の光と闇の羽生結弦の対話から地続きのようにぴったりで。配信でも何度も繰り返し見てしまう、大好きな演出。

ただ現地にいた時は、もう途中から涙が抑えきれずに泣いてしまっていた。というのもレミエンと並んで、というかレミエン以上にずっと再演を願っていたのがこのオペラ座のプログラムで。現地で、しかもこんな最高の演出で見られた、という感動。
そして普通はオープニングとエンディングに加えて1〜2プロを滑るだけ、というのがアイスショーだというのに、本日はもう8プロ目。現役以上に過酷ではないかと思える構成、おそらく体力も厳しいであろう中で。後半にジャンプが詰め込まれたこのオペラ座プロ、さすがにきついものがあったのか…転倒は無いものの着氷が危うい場面が何度か見られて。それが余計にこのオペラ座を滑っていたシーズンを思い起こさせた。
中国杯での事故から始まって、最後の最後までフリーではノーミスの演技ができなかったこと、それでもGPFでは輝かしい結果を残したことなど…当時の様々な思い出が脳裏を駆け巡ったら、この演技が見られた感動も相まってもう感情がパンパンで。それが抑えきれない涙となって、零れ落ちて。もう生でこの演技が見られただけで全てが報われたし、一生の思い出です…という気持ちになれた。

●いろんなことがありすぎて…

こんな感じで一つのショーの合間に、どんどん最高が更新されまくって。見終わった後はすっかり語彙力を無くして、最高だった…良かった…やばかった…ばかりを思っていた気がする。
この後もノッテステラータではまさに「星降る夜」に、羽生君と共にこの場にいるような降り注ぐ光の演出などがあって…もうね、本当いろんなことがあり過ぎて。冒頭に書いた「うまいこと言える気がしない」も、わかってもらえると思う。

繰り返しになるけど、もっかい言う。
このショー、いろんなことがありすぎた!!

アンコールも"春よ来い"から続いて、「羽生君のこれは、葉加瀬太郎の情熱大陸よね!!」とばかりに披露されるお馴染みのアレ。もうこの場に来るような人なら全員が知っていると言っても過言ではない、まさに羽生結弦の代名詞とも言えるSEIMEI!!会場の皆の手拍子の中、平昌のあの日を思い起こさせるような喜びの爆発したようなステップを披露して…最後は皆で立ち上がってスタオベ!!楽しい!!

●スケートで語る男

そして最後は「水平線」の流れる中での周回。フラッグを持っていなかったので、代わりにバナーと手を振って。羽生君が「ありがとうございました!」と言うたびに、「ありがとう!!」と客先からも何度も叫んだ。声出しOKが本当に嬉しかったのは、羽生君のありがとうに対してありがとうが返せたことかもしれない。きっと周りのファンの方々も同じような気持ちだったんじゃないかな、と思う。自分だけでなく、周囲からも口々に同じような「ありがとう!」という叫び声が聞こえてきたから。

語りの中で、まるでかぶせるように『誰の心に残らないことも、目に焼き付くことのない日々も』と震えるような響きで口にした、曲の歌詞とリンクするような台詞も胸に響いたけれど…そこからの言語化できない気持ちの全てを乗せたような激情のスケートが凄かった。
伝わってくる、身体からスケートから、彼の想いのエネルギーが迸るように伝わってくる。この荒ぶる剥き出しのスケートが、最高に羽生結弦で。何よりも心に残ったのは、もしかしたらこのシーンだったかもしれない。スケートは羽生くんにとっての言葉で。こうして想いを表現できるのが、全力で心を乗せられるのが、羽生結弦のスケートなんだと…そう思わされるような一幕だった。

そして最後の恒例の、マイクを通さない肉声での「ありがとうございました!」と場内の大歓声と共に、このショーは完全に幕を下ろした。

●最後に

織田君がインスタでGIFTの感想として、なんか旅行みたいやった」っていう話をしていたけれど。それを聞いて、その通りだなと思った。あれは観客の皆で羽生結弦の、羽生くんの内面世界を旅してきたようなものだったと思う。

暗闇も光もそこにはあった。人それぞれに癒えない傷や痛みというものはある。それでも、時に見失うこともあるかもしれないけれど…光もまたそれぞれ持っているはずなんだと。
こうやって自分の中身を、一部だとしても率直に見せてくれることで。いつか傷ついて彷徨った時に、そっと寄り添い迎え入れてくれる場とし、それを観客にGIFTとして差し出してくれた。それがこのショーだったんじゃなかろうか、と思っている。そのテーマと共に極上のエンタメ感を添えられたので、なんだかとんでもないスケールのショーに仕上がってしまっていたのだけれど…根底にあるのは、そういうものだったと思っている。

本当に、本当に素晴らしいショーだった。ファンの自分は当然、心から楽しめるショーだったのだけれど…それでもきっと、ファンでなくともそれを必要としている人には届くものなのだろう。

これはショーの翌朝に、ホテルの朝食でたまたまご一緒させていただいた方から聞いたお話なのだけれど。「身内がこれまでスケートは見ていても他選手ファンで、羽生君にはまったく興味なかったのに。配信でGIFTを見て珍しくほめていた。どうもショーで羽生くんが語ってた言葉が、ものすごく心に響いたみたいで…」とのことで。この話が、今もまだ胸に残っている。ファン以外にも彼のGIFTが届いている、ということが。なんだか、とても嬉しかったから。

願わくば、必要な人すべてに、このやさしいGIFTが届きますように…


 

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