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プロポーズ大作戦


日曜日の昼下がり。

1年間付き合っていた彼と半年前から一緒に暮らし始め、毎日が幸せの連続だった。休みの日はドライブしたり公園を散歩したり、雨の日は2人でお酒を飲みながら映画観賞を楽しむこともあった。

しかし、この1ヶ月は見事に休みが重ならずただ漠然と慌ただしい日々が続いていた。彼はいつもより仕事が忙しいのか、普段よりもずっと早く家を出て、遅く帰ってくることが増えた。

「彼は今頃、どこで誰と笑いあっているのだろう」

「一緒に暮らすのが憂鬱でわざと外の用事を作っているんじゃないだろうか」

根拠のないネガティヴな気持ちが頭に浮かび、「いかんいかん。」と思考回路を強制終了させる。

“ピンポーン”

寂しさをかき消すように少し強めにキーボードを叩き文字を打ち込んでいると、家のインターホンが鳴った。

「宅配かな」

ガチャ

「ただいまっ。」

ドアを開けると、目の前にいたのは大きな花束と紙袋を携えた満面の笑みの彼。

「!?!...え?今日、夜まで仕事だったんじゃ...」

「びっくりさせてごめんね。笑 実はこれ受け取りに行ってたんだ」

「今日ってなにかの記念日だったっけ?」

カレンダーにふと目を落とすと6月9日(日)を記していた。

「そういうわけじゃないんだけど...これから特別にする予定」

彼は少し目を逸らし、困ったように微笑んだ。言っている言葉の意味がわからず、ぽかんとしていると「そこ座ってて」とソファの上に促される。

言われるがままに腰を掛け、彼の様子を観察していると、買ってきたお花を不器用に花瓶に差し、紙袋に入っていた一本のボトルと苺の乗ったショートケーキを取り出す。

「たまには昼からお酒を飲むのも背徳感があっていいよね」と呟くいたずらっ子のような横顔を眺めていると、「ああ、私、この人のこと好きだなあ」なんて気持ちがぷかぷかと心に浮かんできた。

ケーキを運ぶのを手伝おうと、彼のいるダイニングテーブルの方に駆け寄る。花瓶に差された花は私の好きな白いスイートピー。

(そういえば友人の結婚式に一緒に行った時、「ウエディングブーケは絶対に白のスイートピーって決めてるの」って酔っぱらいながら彼に理想の挙式を一方的に話してたっけ。覚えてくれてるかな。)

聞きたいけど、なんだか恥ずかしくて今更聞けない状況に彼をただじっと見ることしかできなかった。

「見すぎっ。」と、彼は照れ隠ししながらグラスを両手に持ち、ソファのあるローテーブルの方に移動する彼の後ろをケーキを乗せた皿を持ってついていく。

「おいでっ」

ソファの横をポンポンと叩き、招かれるままに隣りにすとんと座った。目の前には赤い気泡を纏ったビールと、艶やかな苺の乗ったケーキ。

「綺麗...。」

思わず声が溢れる。

ワイングラスに注がれた、宝石のように輝くルビー色の美しい液体。繊細な気泡が創り出すふわふわの泡はまるで純白のウエディングドレスのように艶やかだ。

「じやっ、乾杯。」

どちらからとなくグラスを傾け、ゆるやかに揺らぐ深みのある真っ赤な紅色を顔に近づける。苺の上品で甘い香りが、嗅覚をくすぐる。唇をつけ、口の中にゆっくりと流し入れるとフレッシュなアロマと甘さが広がっていく。

「甘くて、美味しい。」

ほうっと息をつき、思わず笑顔になるわたしの表情を見て彼は

「気に入ってくれたなら良かった。」

と胸を撫で下ろしていた。

「でもどうして急にサプライズなんて。普段そんなことしないのにお花とお酒まで買ってきてくれて...逆に怪しい!」

何か良くない知らせがあるのかもしれないと疑いの目を向けると、彼は再び困ったように微笑んで「ちょっと目を閉じてみて」と優しく囁いた。

「キスされるのかな、」と半ば期待しながら、「そんなことでははぐらかされないぞ。」と心の中で小さく誓う。

すると両手を掴まれ、手のひらの上に小さな何かがそっとのせられた。

「目を開けて」

言われるがままに目を開け、ぼやけた焦点を合わせると手のひらの中に映ったのは「指輪」。

「えっ...これって。」

彼と指輪を交互に見ながら戸惑いを隠せない私の隣で真剣な表情をする彼。

「僕と結婚してください」

駆け引きが苦手で飾らず、いつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる彼らしいシンプルな言葉。

「...はい。よろしくお願いします」

言葉よりも先に、涙が溢れてきた。

彼は嬉しそうに泣いている私を優しく抱き締め「泣き虫っ」と笑いながら頭を撫でてくれた。

「最近、帰りも遅いし休み無しに外に出ていたから嫌われちゃったのかと思ってたぁ...」

彼の腕の中に包まれながら、ふと抱えていた不安を言葉にする。

「どうしても指輪を買いたくて、個人で受ける仕事増やしたんだよね。空いてる時間は指輪探してた。」

申し訳なさそうに話す彼、よく見ると目の下のにクマができていた。

「ほら、変にこだわり強いからなかなかこれだと思うものに巡り会えなくてさ。不安にさせてしまっていたならごめんね。」

と言って箱の中にある指輪を私の左手の薬指にスッとはめた。

「指輪なんて無くても一緒にいるのに。」

言葉とは裏腹に、彼の誠意が痛いくらいに伝わり嬉しくなって指輪をはめた手でぎゅっと彼の手を握りしめた。

「これからもよろしくね。愛してる。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

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