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二本松市サーキット場の土砂崩れは普通じゃない??【災害から身をまもるvol.23】

2月13日の地震は宮城・福島で最大震度6強を記録し、また関東地方各地では停電も発生し、広域に被害が出てしまいました。
その中でも福島県二本松市のサーキット場で発生した土砂崩れは「地震時の土砂崩れとして特有」のものだと感じました。
今回はその点に関して私の個人的見解をお話ししたいと思います。

注意点

この記事では、私個人がニュース映像地形・地質情報(既存資料による)から分析して得た見解をお話しします。
私自身、約20年間技術者として現場経験を積んだ専門家ではありますが、現地の詳細なデータに基づいた見解ではありません。
したがいまして「仮説」として捉えて頂ければと思います。


被害状況の確認

ネットニュースの映像をもとに、スーパー地形アプリの地形画像に被災範囲を再現してみました。
参考にしたのは毎日新聞の記事です。見比べてみて頂ければと思います。

3D空中写真_土砂流出範囲

スーパー地形(カシミール3D)より抜粋した画像をもとに筆者作成。
アプリ機能による空中写真3D画像。
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

3D空中写真_崩壊範囲

動画の近接映像などを見る限り、赤線で囲った範囲の斜面が主体になって崩れたと考えられます。
赤枠範囲の上は、下の斜面がなくなったために、引きずられるようにして落ちた可能性が高いと思います。

流出した土砂はサーキットコース内に流れ込み、施設内の建物を破損させています。もし地震が昼間に起こっていたら?と思うとゾッとしますよね。


土砂崩れの特徴

タイトルで「普通じゃない??」と言った理由をお話ししましょう。
まず「平面図」で被災再現を図示してみます。

空中写真_土砂流出範囲

実際の映像をご覧いただければイメージできると思いますが、単に土砂が崩れて落ちたというよりも、かなり「流動的だった」ように見えます。
現地画像のパッと見の印象では乾いた感じですが、水を含んだドロドロの土砂が流れたように見えます。

では実際に、どのくらいの距離を流れたのでしょう?

空中写真_土砂流出範囲_流出距離

赤線は左上のスケールをなぞって回転・移動させたものです。
つまり赤線の長さが300mです。
この土砂崩れは約300mも流れたと分かります。

では、この約300mとはどんな距離なのか??

「一般的な土砂崩れがどこまで到達するのか?」を考える場合に参考になるのが法律で定められている「土砂災害警戒区域」の考え方です。

危険箇所

出典:国土交通省

今回は一番右の「急傾斜地の崩壊」が参考になります。

危険箇所_急傾斜地02

国土交通省資料に筆者一部加筆(赤丸部)

警戒区域(図の黄色)のうちの下流側の距離は、急傾斜地(崩壊範囲)の高さの2倍(2h)とされています。
つまり土砂崩れの土砂の到達距離は、落差の2倍程度ということです。
これは経験則から言われていることで、私の現場経験でも、落差の2倍の距離は「だいたい、その通りだな」と言う肌感覚です。

では今回の土砂崩れは?

画像7

崩壊範囲を大きめに見積もって、上の方で標高564m

画像8

下は標高514m落差は50m
ということは、警戒区域は下流から100mまでの範囲内ですね。

空中写真_土砂流出範囲_流出距離100m

図の赤線が100mです。余裕でオーバーしていますね。最大で2倍くらい?
これでは「警戒区域外だから大丈夫」とは言えませんね。困ります。


もちろん例外もある

「落差の2倍」は経験則だとお話ししました。
土砂崩れは自然現象ですから、色々な条件が絡み合い、平均から外れる場合もあります。
「だいたいそういう場合が多い」ということで、絶対ではありません。
でも法律で定められた警戒区域設定の基準にされているくらいですから、決していい加減な数字でもありません

胆振東部地震

公益社団法人砂防学会(2018)より

これは2018年に発生した北海道胆振東部地震で発生した土砂崩れです。
この地震で厚真町(あつまちょう)を中心とする地域で同じような土砂崩れが多発しています。

今回の二本松市サーキット場の土砂崩れと雰囲気が似ていると思いませんか?

厚真町の土砂崩れの研究の結果、細粒(砂粒~数cmの小石くらい)の火山性の地質もともと水を多く含んでおり、地震で液状化を起こして崩れたのではないか?と言われています。

今回の土砂崩れ現場の場合は、西にある安達太良火山火山灰や軽石が降り積もってできた地層が分布しているようです。


地震は突発的な現象ですから、それによって引き起こされる土砂崩れは防ぎようがありません。
ましてや、警戒区域外まで届くとなれば、なおさら逃げようがありません。

まずは、このような現象があると認識して頂ければと思います。
その上でどうすれば良いか?については、追々、この続編と言うかたちでお届けしたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

公益社団法人砂防学会(2018)平成 30 年北海道胆振東部地震土砂災害緊急調査団第一次調査団 調査報告.

小山内信智・海堀正博・山田 孝・笠井美青・林 真一郎・桂 真也・古市剛久・ 柳井清治・竹林洋史・藤浪武史・村上泰啓・伊波友生・佐藤 創・中田康隆・阿部友幸・大野宏之・武士俊也・田中利昌・小野田 敏・本間宏樹・柳井一希・宮崎知与・上野順也・早川智也・須貝昂平(2019)平成30年北海道胆振東部地震による土砂災害.砂防学会誌,Vol.71,No.5,p.54-65.

阪口圭一(1995) 二本松地域の地質 . 地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,79p.

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