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地層に刻まれた「衝突の証拠」とは??(プレート境界の"溝"を埋め立てました その3):南西部山間地域【都道府県シリーズvol.43山梨県part1-3】

山梨県の南西部山間地域の大地が形成された時代は、ほぼ新生代新第三紀に集中しています。そのキーワードは島弧ー島弧多重衝突でした!

前回記事はコチラ↓

どこ?

17_地形区分

スーパー地形(カシミール3D)より抜粋した画像をもとに筆者作成。
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

山梨県南西部山間地域は図の地域です。

1710_地域範囲市町村

図に示した8市町それぞれの一部地域です。


大地の成り立ち③

この地域はかつて伊豆・小笠原諸島を構成していた火山島がいくつも衝突してできた地域だと言われています。

1710_天野ほか2007_01

南部フォッサマグナの地質概略図(天野ほか2007より)に筆者一部加筆(赤線、赤点線)

図のA~Dがそれぞれぶつかり、これらは現在の伊豆・小笠原列島と地質の組み合わせが類似しています。
つまり「沈み込みの火山島」「海が裂けてできた海底火山」の地質のセットがあるんです。
そのような事から、かつての火山列島が衝突したと考えられています。


いつ?

そうですよね。
特に地質学の世界では、ウン100万~ウン1000万年前とか遠い昔のことを研究しているので、「空間」だけではなく「時間」も辻褄が合わないと、その学説は成り立ちません。
火山列が次々と衝突したとすると、上の図を見た場合、位置関係的には「D」が一番古いハズですよね。
ここで仮に、年代を詳細に調べて「Dが一番新しい」となってしまったら、この学説は「正しくない、またはどこか修正が必要」となってしまいます。

ところが!です。
地質学では「化石」「放射性元素」を分析して年代を調べるのですが、それで分かるのは、あくまで「地層ができた時代」です。

「地質年代の調べ方」についてはコチラをどうぞ!↓


この学説の場合は地層が出来た時代だけではなく、衝突した時代も突き止めなければ十分な証拠とは言えません。
では、研究者の方々はどうしたのでしょうか?


溝を埋めた堆積物を調べる!

そうなんです。ここで、やっと出てきました(;^_^A

1710_天野ほか2007_01

南部フォッサマグナの地質概略図(天野ほか2007より)に筆者一部加筆(赤線、赤点線)(再掲)

何度も出しているこの図。
赤線でなぞったのがプレート境界で、東は相模トラフ、西は駿河トラフと書いてあります。
フィリピン海プレートが潜り込んでいるので、になっているんですね。

海溝模式図

付加体模式図(産業総合研究所の図に筆者一部加筆)

この図の赤点線のような細長い溝になります。

多重衝突概念図_天野ほか

多重衝突模式図(天野ほか2007より)

この地域の場合はこの図のようになります。
一番上の「1200万年前」櫛形山(くしがたやま)地塊が「D」の地域です。この時代は「D」の地層ができた時代

次の「500万年前」では櫛形山地塊(D)が衝突し、ギュウギュウ押されて盛り上がっています。この時に川に削られ、堆積物が右側の溝を埋めます(黒点々で図示)。

川って上流の方が急流ですよね。それは山間地域で傾斜がきついから。
急流だと削る力が強いので、石ころの大きさでも流されます。
でも削られる一方だと、だんだん傾斜が緩やかになり、川の流れも緩やかになって砂や泥しか流れません。

つまり衝突して盛り上がっている間は、急流なので石ころが流され、溝には礫岩ができます。
そして盛り上がりがおさまると砂や泥が溜まり、また次の火山島が衝突して盛り上がると、また礫が溜まる。
つまり溝を埋めた堆積物が礫岩なのか?砂岩なのか?泥岩なのか?で衝突のタイミングが分かるということ。
そして堆積物内には化石があります!これを調べれば時代も分かる
いやぁ!面白いですよね!!

1710_地質図01

そういう目で改めて見てみます。
赤線で囲った北の地域が「D」の一部と「C」です。
ピンク色が流紋岩で、これは「沈み込みの火山」。緑色が玄武岩「海が裂けてできた海底火山」です。
(※南西にも似た地質がありますが、詳細は不明です)

1710_地質図04

そしてこの範囲が、溝を埋めた堆積物(礫岩、砂岩、泥岩)です。
なるほど!
富士川流域は昔の「海溝」なのですね!

いかがでしたでしょうか?
3回にわたってしまいましたが、島弧ー島弧多重衝突説を通じて「地質学って面白い!」と思っていただければ幸いです。


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参考文献

天野一男・松原典孝・田切美智雄(2007) 富士山の基盤:丹沢山地の地質 -衝突付加した古海洋性島弧-.富士火山(2007)荒牧重雄,藤井敏嗣,中田節也,宮地直道 編集,山梨県環境科学研究所,p.59-68.

天野一男・伊藤健二(1990)南部フォッサマグナの形成ー堆積物からみた島孤の衝突付加テクトニクスー.地質学論集,第34号,p.45−56.

金栗聡・天野一男(1995)南部フォッサマグナ富士川谷南東部に分布する富士川層群の地質とナンノ化石層序.地質学雑誌,第101巻,第2号,p.162-178.

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