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「残ってくれて、ありがとう」"地質学者"のひとりごと【地質アルアルvol.1】

今年の4月からnoteに書き始め、色々な方々に記事を読んでいただき、ほんとうに感謝しております。
普段は各地域の地形・地質の特徴や災害に関してお届けしていますが、今回は単純に、地質学者&斜面災害地質の技術者としての私が何を思うのか?
について、恥ずかしながらお話ししたいと思います。

地質学者は想像力が豊富?

自分で言うのも何ですが地質学者は基本的に想像力が豊富です。
これは「もともと」と言うよりも研究するうちに鍛えられるのだと思います。

これまでも色々と「この地域はなんでこうなったのか?」をお話ししました。その「結果」を知るために、実は地質学者は散々に山の中を歩き回っています。
私も大学生の時に研究で1人で山の中を歩き回り、あちこちに散らばっている証拠(地層)を集めます。
それらバラバラのピースをつなぎ合わせてストーリーを生み出すのですから、確かに想像力は鍛えられますよね。

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サラリーマン時代、仕事で歩いた渓流で見つけた「珪化木(けいかぼく)」つまり木の化石:筆者撮影

「時間」を目で感じることができる学問

これは今も私の心に響く「名言」です。
色々なことを教えていただいた尊敬する先輩の名言です。

そう。「時間」は誰しもが意識しているものですよね。
でも目に見えるものではなく、ある意味捉えどころのない概念です。
時間の経過は、例えばアナログ時計の刻一刻と刻む秒針を見つめれば、リアルには感じられます。

でも過ぎ去った時間の痕跡を、この目で見られるのは地質学の大きな特徴だと、私も感じています。
以前、地質年代の話をしました。
地層の観察を通じて「時代」を比較したのが地質学者です。

地層対比_相対年代

今まで残ってくれて、ありがとう

地質の話をすれば、まず〇〇万年前という言葉が出ますよね。
地球の約46億年と言う途方もない時間を考えれば、常に〇〇万年前とか〇〇億年前という単語が出るのが地質学です。

でも長い地球の歴史の中で、古くなれば古くなるほど、その自然の営みの痕跡は消えてしまいます。

以前、福島県南西部の田代山湿原のお話をしましたが、その元となった火山噴火がどこで起こったのか?痕跡が少なくて確定していないというお話もしました。

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スーパー地形(カシミール3D)より抜粋
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

私は大学生時代に約1500万年前の海底火山の研究をしていましたが、研究で山を歩き回るうちに「もしかしたら、海底火山の一部は陸上に出ていたのではないか?」と考えるようになりました。
確たる証拠はありませんが、おそらく、色々と観察したこと深層心理に残り感覚的にそう思ったのでしょう。

でもそれを実証するためには、そういう地層を見つけねばなりません。
陸地には川があります。川には丸い石があります(川原の石です)。

そしてある時、火山噴火の地層の中に「丸い石」が混ざっているのを発見しました!
広い地域を調べてましたが、火山の地層に丸い石が混ざっていたのは、そこだけです。
しかもその場所は火山の上の方にあたる場所でした。
やっぱり!と思いましたが、残念ながらそれだけでは証拠としては弱く
私の「海底火山の一部は陸上に出ていた」仮説は実証できませんでした。

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茨城県大子町の「月待の滝」:筆者撮影

でも、その丸い石を見つけた時は、心の底から思ったのです。

「今まで残ってくれて、ありがとう」と。

もちろん、その海底火山の一部が陸上だったからと言って、何かが大きく変わる訳ではありません。
でも一方では、その証拠かもしれない丸い石は、そこにしかなかった
と言うか、そこにしか残っていなかった

大昔に火山活動に紛れて転がっていた丸い石地層に封じ込められ、約1500万年の歳月を経過して、人類の若者が初対面した瞬間でした。

こういう長い年月を超越した出会い積み重ねで地球の46億年の歴史についての理解が深まったのだと思います。
現在の人類の地球観は、たくさんの地質学者たちの「残ってくれて、ありがとう」の気持ちの集大成で出来てるのだと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

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