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NHKスペシャル『海上自衛隊はこうして生まれた ~ 全容を明かす機密文書~』(2002)

ぼくはもともと劇映画が好きだが、最近はドキュメンタリーに凝っている。とりわけ「NHKスペシャル」に凝っている。

過去のすぐれたNHKスペシャルはDVD化されていて、オンラインレンタルなどで簡単に見ることができる。今日までに次の作品を見た。

・『MEGAQUAKE(巨大地震)Ⅱ 』全3回
・『首都水没』
・『深層崩壊が日本を襲う』
・『海上自衛隊はこうして生まれた ~ 全容を明かす機密文書~』

今日は「巨大地震シリーズ」について語ろうと思い、記事もある程度書きあがっていたんだけど、そのあとで見た『海上自衛隊はこうして生まれた』があまりに秀逸すぎるので、そちらをあつく語ります。

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最初に言っておくが、ぼくはミリタリー好きではない。どちらかといえば、敬遠しているほうである。しかし、『海上自衛隊はこうして生まれた』は、これからの日本を考えるにあたり、日本人が全員見ておいたほうがいいくらいの内容だとおもう。

しかし、アマゾンレビューもほとんどなく、発表当時から話題になっていないようだ。これだけの力作なのに、なぜなのかさっぱりわからない。

番組の姿勢はかなりフラット。自衛隊を擁護する側にも否定する側にも傾かないようにしつつ、丁寧に史実を追っている。そのバランスのとり方に感心した。

番組の導いた結論は「海上自衛隊は海軍だ」ということ。旧日本帝国海軍首脳部とアメリカ海軍が協力し、日本海軍再建に向けて創設したのが海上警備隊(のちの海上自衛隊)である。

そのプロセスは「Y文書」と呼ばれる機密文書に詳細にしるされている。旧帝国海軍首脳部とアメリカ海軍とのあいだで極秘に行われた海軍再建のための会議が「Y委員会」で、その全貌が数千ページにわたって記録されている。かつては、歴代の海上自衛隊トップ(=幕僚長)のみ閲覧できる機密資料として保管されていたそうだ。

この機密資料が、長い交渉のすえNHKに公開されたのだそうだが、その経緯には当時の世相がおおきくかかわっていたと考えるべきだろう。

番組が放映されたのは2002年で、アメリカが2001年の同時多発テロから2003年のイラク戦争へむかう途上であり、2002年には海上自衛隊のイージス艦がインド洋へ派遣されている。「Y文書」の公開は、このあたりを文脈をふまえておいたほうがいい。

Y文書にもとづき、終戦直後から海上警備隊発足までの経緯を追ったのがこの番組である。以下、とくに印象に残った点を、アメリカ、韓国、日本の視点から、列挙してみる。

(アメリカについて)
アメリカは日本人を憎んでいる。当時もそうだったことがわかるし、いまでも基本はそうだと思っておいたほうがいい。「9.11=真珠湾」これがアメリカ人の日本に対する前提認識であり、消えない感情だと思っておいたほうがいい。

(韓国について)
ぼくはこれまで、旭日旗にたいする韓国の過敏さをややウザイと思っていた。だが、この番組を見れば、かれらの反応はかなりもっともだということがわかる。というわけで、あまりハラが立たなくなって健康にいいので、そのためだけにでも見て損はない。

(日本について)
海軍再建計画は最初から政府レベルで進められていたわけではなかった。終戦直後から、ほんの数名の元大佐、元中佐が秘密裏にあつまって研究していたものだ。かれらは再建までに100年かかると考え、ソビエト侵攻に備えて北の守りを固める研究を進めた。そして、明治時代から蓄積されてきた日本海軍のノウハウを後世に残そうとした。これが後にそっくり海軍再建計画として米国務省に採用されるわけだが、最初は、仕事を終えてから集まる完全にプライベートな会合だった。ほとんどの旧海軍幹部が日々の生活に追われていた中で、100年先の再建を見据えて詳細な計画を練っていた人々がいたことに畏敬の念を覚える。

再建への最大のカベになったのが、旧海軍派と海上保安庁の確執だという点もとても興味深い。

というわけで、令和の海上自衛隊にも「明治以来蓄積された旧帝国海軍のノウハウ」がそっくり受け継がれているのはまちがいない。

優れたドキュメンタリーで歴史の流れを概観するのはイイ。軍事にかぎらず一般論として、組織と組織が交渉するにあたって「こういう風に動くことがある」、また、「こういう展開はありえない」といった知見をいまぼくは少しずつ蓄積している途中だ。いろんなニセ情報が飛び交う時代に世の中のうごきを把握するには、自分にはこうした知見がまだまだ不足しているし、必要なものだと感じる。

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